恵文社一乗寺店

恵文社一乗寺店

恵文社一乗寺店

働く人によってお店のカラーは決まるもの。地域で愛されているお店は特に、店長やスタッフの人柄が色濃く出ているものです。

 

さて、京都の学生や本、雑貨好きの紳士淑女たちなら知らない人はいないであろう恵文社一乗寺店。「恵文社は書店にして書店にあらず。」という言葉は正しく、本の隣には雑貨が並び、毎日入れ替わる展示や週替りのギャラリースペースでは、常に新しい出会いが生まれている。そんな変化がめまぐるしいお店が「自分に合っている」と語るのは、雑貨を中心に取り扱いお店の空気づくりも担っている店長の田川怜奈さん。

 

広いフロアを取り仕切るにはさぞ徹底したルールがあるのだろうと思ったが、話を伺うほどに見えてくるのは生き物のような組織のあり方と、白か黒かよりもグレーが好きだという田川さんの豊かな感性だった。

店長・田川さんの視点を通して、恵文社が一乗寺で長く愛される理由を紐解いていく。

住所

〒606-8184 京都府京都市左京区一乗寺払殿町10

営業時間

10:00 – 21:00(2015年5月11日より)

(年末年始を除く)

お問い合わせ

TEL:075-711-5919 / FAX:075-706-2868

インタビュアー:堤大樹

写真:岡安いつ美

作らざるを得ない人がいて、「ここにいますよ」って旗を振れる場所があるなら、お声掛けするには十分な理由

──

場所の紹介をされている媒体はたくさんいらっしゃるので、私たちは働いている方の視点を通して語っていただくことで、お店のあり方や大切にされていることをお聞きできればと思っています。とは言え、まずは簡単に恵文社のお店のことをお聞きしてもいいでしょうか?

田川

恵文社は、書籍の他にアーティストや生活にまつわる雑貨なども扱っていて、併設しているギャラリーでは恵文社企画のイベントや作家による展示などを行っている「本にまつわるあれこれのセレクトショップ」です。

 

ここ(インタビューを行ったCOTTAGE)が日替わりレンタルで貸出しているイベントスペース。当店真ん中が書籍のフロア、その東隣には当店で一番大きなギャラリーのあるフロア、アンフェール。こちらは1、2週間の会期でお貸出ししていて、たまに当店企画の展示会も行っています。ギャラリーに併設した空間では、ステーショナリーを中心に販売しています。加えて、書店西隣にあるフロアが、衣食住にまつわる雑貨を扱っている生活館。入ってすぐ右側にミニギャラリーがあります。こちらはレンタルギャラリーではなく、2週間ごとに当店企画の展示を行っています。

ミニギャラリーを有する生活館
──

そう考えるとかなり全体の中でも展示スペースの割合が多いですね。管理や企画も大変じゃないですか?

田川

大変ですね(笑)。個人店ですし、そんなに店舗設計に計画性のあるお店ではないんですよね。もともと一乗寺の小さな書店としてオープンして、周りに芸術系の学生が多いということもあり「学生が気軽に借りられるようなギャラリースペースを」ってことで、まず奥にギャラリースペースができました。その後『Arne』や『天然生活』が出版され始めたときに、それらライフスタイル本の売上がよく、その流れで生活館ができて。だんだん増築していった感じですかね。

雑貨を置くだけじゃなくて、2週間に1回とか展示を入れ替えることで、お客さんも飽きないというか、新しい風が店内に吹くのでやっぱりギャラリーは必要かなと思いますね。

──

展示のときの、セレクトの基準はありますか?

田川

作り手さんもいろんな方がいらっしゃって一概には言えないですけど、やっぱり作らざるを得ない人っていて、そんな方を選んでいることが多いですね。

──

–:作らざるを得ない人ですか。

田川

作る必要はないはずなのに、作っちゃう人ってやっぱりいるんですよ。生活館のフロアで扱っている陶器の作家さんで伊豆の陶芸家さんがいるんですけど、その方が自分で土を掘るところからやっているんですよね。わざわざ自分で薪を切って、それを燃やして器を焼いて、使い終われば最終的に土に還ればいいって言って。薪は買えばいいし、それってもっと簡単にできることのはずですよね?利益が出ないやり方かもしれないのに、それでも(そうやって)作りたいって思ってるってすごいことじゃないですか。

──

そういう作家さんとどうやって出会うんでしょうか?

田川

もともとその作家さんがお知り合いの場合もあったりしますけど、こちらからお声掛けしたりします。クラフトフェアとかに行って、気になる!って思ってお声掛けすることもありますね。でもやっぱり似た者同士ってどこかで出会うもので、実はすごく近くにいたりして、そういう意味で左京区ってものづくりするには居心地良いのかなって思ったりします。知恩寺の手作り市とかはいろんな作家さんが出店されていて、ご縁ができて繋がって、話が弾んで「じゃあ展示してみるか」ってなったりすることも多いですね。

──

展示をされる際に心掛けていることってありますか?

田川

企画に対してとか、展示をする意味とかって実はそんなに難しく考えていないんです。すごく素敵なものがあるのであれば、その作り手の人に、当店を販売場所のひとつに選んでもらえたらなと言う気持ちで、まずはお声掛けしています。売ってお金になるならば作家さんはどこで展示してもいいと思いますけど、せっかくうちでやるなら見てもらいたし売れてほしい。こんな作品、作り手がいますよって旗を振っている感じですかね。

「働く」って生き物。雑談できる余裕が働きやすい空気を生む

──

恵文社にはどういったスタッフさんが多いんでしょうか?本好きの方が多いようなイメージを勝手にしているんですが。

田川

書籍フロアにいるスタッフは本好きですが、その中でも雑貨好きのスタッフがいるし、雑貨のフロアでも書籍に詳しいスタッフはいます。今3つフロアがなんとなく分かれているんですけど、1つのフロアに1人がずっといるってことはなくて、横断して担当していますね。

──

風通しがいいんですね。

田川

風通しはいいですね。いろんなスタッフがいますけどなんとなく上手く回っています。

──

フロアを横断しながら全員で恵文社という本体を動かしているんですね。生き物みたいに感じてきますね。

田川

そうかもしれないですね。生き物じゃないですか「働く」って。やっぱり人ですよ。なんの仕事をしているかじゃなくて、誰と働らくかによっても仕事の仕上がりって変わるし、職場の空気を作るのも人なので、とても大事なことだと思います。

──

田川さんが店長としてそんな風通しのいい職場を作るために、大事にされていることって何ですか?

田川

あんまり決めつけないことですかね。こんな本もあって雑貨もあってギャラリーもあるお店ってないと思うんですけど。フロアごとにスタッフがいて、それぞれの主張もあるしぶつかったりもするんですけど、誰の意見が正しいとかをあんまり決めつけずに聞いて、みんなが気軽に話せるような良い空気は作ろうとしています。

 

そうしたらスタッフと喋ってそこからお店を良くするアイデアとか出たりするかもしれないし、そういう雑談ができるようなちょっとした時間を作ったり、余裕を持って働けるのが良いかなと思います。それと、うちでは1日1日イベントのカラーが違うので、柔軟に対応する必要があるので、フロアは隣通しでも「今日のイベントあれだよね」とか話をして確認するのは大事なことなんです。

──

ライブイベントからワークショップ、トークイベントまで多様なイベントを開催されていますもんね。

田川

毎週イベントの内容も売っているものも違うので楽しいですよ、飽きないから。本も商品も毎日入ってくるし、情報も多いし実はとても新鮮な職場なのかもしれないですね。

──

田川さんは学生時代はデザインを学んでいて、「エンドユーザーの反応が直接知りたい」という想いでものを売るという仕事に就かれたんですよね。恵文社に入社されて、実際にお客さんと接する立場で働いてみてどうですか?

田川

自分には合っていると思います。楽しいですね。やっぱり反応がダイレクトに繋がって、アイデアを考えているだけでは最終段階がわからなかったことが、今はユーザーに届いているっていうのがわかるので。売り場に立っていると、「この商品はお客さんの反応が良いな」とかがわかるので、そういう空気が伝わると嬉しいです。今後も売り場には立ちたいです。

スーパーで美味しいトマトに巡り会えるように、買い物の寄り道には楽しい発見がある

──

お店づくりについて質問です。お店づくりをされる際のイメージはありますか?

田川

私は「こんなお店があったら楽しいな」という場所をイメージしています。例えば、自分が学生だったらどんなお店が楽しいかなとイメージして、アイデアに煮詰まってふら〜っと来て、自分が予想していなかったようなアイデアのインスピレーションに出会えるような場所だったら良いなと思います。

──

田川さんは普段どこかのお店に行って、予想外のものに出会うってありますか?

田川

あります。スーパーにふら〜っと入って、ピーマン買おうと思っていたけど美味しそうなトマトを見つけて、トマトを買ったらそれも出会いですよね。

──

そういった意図せぬ出会いを大切にされているってことですね。欲しい本や雑貨を買いにお店に行ったけど全然違うものを買って帰るっていう。

田川

それが買い物の楽しさじゃないですか?これも一期一会だしって。買いたいだけのものだったらネットで買えますしね。買い物する楽しさってそのものを買う行為じゃなくて、そのお店を楽しむという体験だと思います。

──

目的が無くても、恵文社に来ると「なんかあるかな」みたいな感じでしょうか。

田川

それが嬉しいです。宝探し的な感じ。その日の気分に合うものを探したり、遊園地みたいな、これ乗って、次にあれ乗ってみたいなそういう楽しい時間を過ごしていただけたら嬉しいですね。

──

僕は最短ルートで生きてきたので、できるだけ買い物で迷ったりはしたくないタイプなんですが、そんなタイプの人にも、恵文社での出会う楽しみ方を教えてほしいです。

田川

まずは知っている本や作家の名前を探しちゃうと思うんですけど、その隣に全然違う本があったりするので、その並びの文脈を考えてみるのも面白いかもしれません。

そんな知識の寄り道からおもしろい発見があったりするものだと思いますよ。

──

知らないものに興味を持ったり、時間の余白があって良い場所が恵文社なのかもしれませんね。それを押し付けがましくなく、自由に自分で選んでください、というのが田川さんと恵文社に共通する価値観なんですね。本日はありがとうございました。

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堤 大樹
堤 大樹

26歳で自我が芽生え、なんだかんだで8歳になった。「関西にこんなメディアがあればいいのに」でANTENNAをスタート。2021年からはPORTLA/OUT OF SIGHT!!!の編集長を務める。最近ようやく自分が興味を持てる幅を自覚した。自身のバンドAmia CalvaではGt/Voを担当。

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岡安 いつ美
岡安 いつ美

昭和最後の大晦日生まれのAB型。大学卒業後に茨城から上洛、京都在住。フォトグラファーをメインに、ライター、編集等アンテナではいろんなことをしています。いつかオースティンに住みたい。

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