芝生の上、空の下、カオスにさらけだし合うひとたち。「さらけだすZINEピクニック」インタビュー

芝生の上、空の下、カオスにさらけだし合うひとたち。「さらけだすZINEピクニック」インタビュー

芝生の上、空の下、カオスにさらけだし合うひとたち。「さらけだすZINEピクニック」インタビュー

2022年5月7日、福岡市の舞鶴公園で「さらけだすZINEピクニック」が行われた。その名の通り、「さらけだす」をテーマに参加者がそれぞれZINEを作り、公園でピクニックをしながら展示・販売するというイベントだ。

 

福岡にいる知り合いづてに知ってから、このイベントのことがなぜか気になってしかたなかった。私は鹿児島県出身で田舎へのコンプレックスを抱えながら育ってきたこともあり、九州でおもしろそうなことをやっている人たちがいることが嬉しかったのがひとつの理由だ。

 

しかし、主催者の中村みさきさんに取材を申し込み、オンラインで話をしている時、このシンパシーは同郷のよしみだけではないことを確信した。中村さんが語る「きれいなものばかりの世の中のつまらなさ」や「誰でもできるし、してもいい、表現というものの自由さ」など、いくつものトピックが私を揺さぶる。

 

大阪在住の私は、当初オンラインでインタビューをするつもりだったが、実際にピクニックに参加したい、直接会って話を聞きたいという思いが募り、福岡へ向かった。インタビューを行ったのは、ピクニックの余韻がありありと残る開催翌日。主催者の中村さんと、参加者の三迫太郎さん、松元世菜さんの3人に話を聞いた。

プロフィール

 

中村みさき
1988年福岡育ち、空間構成アーティスト。室内室外問わずいろんな場所に茶室を作り、お茶を点(た)てるパフォーマンスをしている。陶芸と文章を書くことと、オタクもしている。最近は「カオス」と「さらけだし」と「手放し」に興味を持っている。さらけだすZINEピクニックの主催者。
https://www.instagram.com/mamimumemiiiiii/

 

三迫太郎
1980年福岡生まれ、フリーランスのグラフィックデザイナー。身近な人たちの気軽な発表の場として友人と始めたZINEイベント「10zine」は今年で10周年を迎える。最近は自身の経験をきっかけに意識するようになったジェンダー関係の話題をSNS上で発信している。
https://www.instagram.com/taromisako/
https://taromisako.com/

 

松元世菜
1996年鹿児島生まれ、葬儀社勤務。大学で映画論、哲学、フェミニズムなどに触れる。本イベントにあたり友人と2021年に共同制作した『推察』が人生初のZINEとなった。歌うこと、文章を書くことが好き。言葉にならないことをかたちにするために最近絵を描き始めた。
https://www.instagram.com/__snusmumriken_11/

『さらけだすZINEピクニック』は、みんなが求めていた箱だったのかもしれない

──

昨日はお疲れさまでした。

中村

まだ昨日の余韻がすごくて、言葉にしてしまうのが惜しいような気もします。感動的な話をしようと思えばできないこともないんですけどね(笑)

──

わかります。言葉にするとやっぱり固定されてしまうから、そこからはみだすものを思うとちょっともったいないですよね。でも自分から出てきた言葉によってなにかに気づくこともあるし、今日はそういうところに目を向けながらお話ししていければいいなと思います。ではまず、中村さんがご自身でZINEのイベントを開こうと思ったきっかけからお伺いしてもいいですか?

中村

きっかけは、友達と3人で話していたときに、ひとりが「文章が書きたいけど書けない」「ZINEを作ってみたいけど、どうやったらいいのかわからない」と話していたことです。私はこれまでZINEをいくつか作ってきたので、作り方を教えてあげるような役割を期待されていたと思うんですが、私はZINEに決まった作り方なんてないと思っているから、「締め切りがあればできるよ」としか言えなくて。それで、じゃあその3人でそれぞれ勝手にZINEを作って、お互いに見せ合う日を決めちゃおうってなったんです。それがだんだん、友達3人だけじゃもったいない気がしてきて、あの人もこの人も…… って声をかけてイベントにしちゃった。それが1回目の『さらけだすZINEピクニック』(以下、ジンピク)です。

中村みさきさん(撮影:三迫太郎)
──

「さらけだす」っていうテーマはどんなふうに出てきたんですか?

中村

その時期、松元さんも含めてなんか変な友達(笑)が増えてきていて、その人たちと日々しゃべっていた内容から影響を受けています。「さらけだす」っていうテーマは私が生み出したわけじゃなくて、自分の周りにいる人たちとの関係とか、ああだこうだ言うコミュニケーションの中からプカッと浮かんできたものなんですよ。みんなそういう気分だったんだと思う。私はそれを網ですくいあげて、「お!獲れた!」みたいな感じで。だからみんなこのテーマに乗れたんでしょうね。

──

出品者は募集しているわけではなくて、中村さんがオファーしているんですよね。

中村

そうです。やっぱり最低限の信頼関係がないとさらけだせないでしょと思って。会ったこともない人が、自分の深い深いところを私に預けられますか?って考えると、それは無理なんですよね。そもそも「友達3人だったら見せ合えるもの」というのが始まりですし。でも、完全な内輪のものになると面白くない。だから数回しか会ったことのない人でも「その感じ」が伝わりそうだと思った人には声をかけました。

──

お二人は中村さんからオファーがきた時、どうでしたか?

松元

「さらけだすZINEピクニックっていうのをやろうと思うんだけど」という内容の長文のLINEが来たのが始まりでしたね。私はもともと、文章を書くとか表現するということに対して、いろんな考えにがんじがらめになっていて。文章というのはものすごく神聖なるもので、相当な気持ちがないと書けないものだし、書いたところで私の書いたものなんて誰も読まないだろって。書きたいけど書けないし、書きたいと思ってはいけないとずっと思っていたんです。でも、中村さんが「それって書く場所がないだけなんじゃないの?」と言ってくれて。同時期に他の人からも「書いたら?」という言葉をいっぱいもらっていたので、LINEが来た時にはなにか腑に落ちたような感じでしたね。「さらけだす」というテーマも、「あぁ、これを探していた!」みたいな感じで、響き合いのようなものがありました。それが1回目のときです。

松元世菜さん(撮影:三迫太郎)
三迫

僕は2回目からの参加で。1回目のイベント告知を見たときに、「なんて楽しそうなことをやってるんだ!」と思ったんだけれど、1回目の参加者は女性に絞られていたんです。その時は通販で何冊かZINEを買ったのですが、読んでみるとやっぱりすごくおもしろくて。「もし呼んでくれたら、めっちゃ書きたいことあるのに」とずっと思っていました。その流れがあって2回目に声をかけてもらったので、その時にはすでに書きたいことが十分あったまっていました。

中村

「さらけだす」というテーマを伝えたときに、みんなの反応がすごくアツくて。「いや、もう、これが必要でした!」「これしかない!」みたいな感じで、企画した私よりもアツくて。だからもしかしたら、ジンピクはみんなが求めていた箱だったのかもしれない。

──

みなさんがそれぞれ作られたZINEはどんなものか、一言ずつでいいので教えていただけますか?

中村

私は、風俗で働く27歳の女性の話を小説の形で書きました。「なんか大丈夫」の自分を獲得する過程がテーマです。あと、自分の写真でアクキー(アクリルキーホルダー)を作りました。

三迫

僕も中村さんのアドバイスを受けて小説の形で書きました。結婚して家族を持った男性が社会から求められる男らしさや、メンタルヘルスについての話です。

松元

私は、「推し」についての文章を書いています。対象は同じで、推し方が正反対な友人と合作で「推すこと」を考えるZINEを作りました。

──

ZINEの内容だけでなく、形式も人によって違ってくるのがおもしろいですよね。昨日行ってみて思ったのですが、「さらけだす」というテーマだけでなく、「ピクニック」というのも大事な要素でした。

中村

ギャラリーのような空間で展示するのではなくて、持ち寄ってピクニックしようと思ったのは野生の勘みたいなものです。でも実際にやってみて、「あぁ、だからこうだったんだ」と理由が後からついてきました。「さらけだす」がテーマだからけっこう重い内容のものも集まっているし、書き手が鎧を落としているから、受け手は自分と全く違う考え方や感じ方に直に触れることになる。でも、公園の真ん中の芝生の上という開けた場所で読むと自分もオープンになって、すっと自然に受け入れられるんですよね。優しくなれる。

撮影:ヤマモトハンナ

きれいなものばかりではなく、もっとみんなの「内臓」が見たい

──

ZINEに対する思いはどんなものがあったんでしょうか。

中村

10zine」という福岡のZINEのイベントに5年前から参加してZINEを作っているんですが、実は私は「ZINEが大好き!」とかそういうのは全然なくて。これまでに醸成されてきたZINEの文脈のようなものも私は最初ほんのりとしか知りませんでした。でも、イベントに参加したりすることでいろいろなzineを見るようにはなりました。見ていて思ったのは、「みんなかっこいいなー、上手に作るなー」ということ。もちろん、かっこいいものもいいのは前提なのですが、ZINEってなんでもしていいはずなのに、きれいなものが多く目に入ってくる。そういう空気の中で自分もこれまではわりときれいなものを作っていたのですが、そこに違和感を感じたりもしていました。もっと泥臭いものが多くてもいいのではないかなと。ZINEにはもともとそういう文脈があると思いますし。

三迫

10zineはもともとデザイナーなどのクリエイターが集まって、普段の商業に乗る仕事以外の自分の表現をやりたいということで始めたイベントなので、特に最初はグラフィックデザインや絵や写真などのビジュアルに寄った表現をしているZINEが多かったですね。

松元さんがカバンに付けていた、中村さんのアクキー。(撮影:三迫太郎)
──

「さらけだす」というテーマは、そういったきれいなものへの違和感ともつながっている気がしますね。

中村

さらけだしたら、他人から見てもおもしろいんですよね。その確信だけは最初からあって。みんなが鎧を脱いでさらけだして「内臓」を見せてくれたら、それはもう絶対におもしろいから、きれいに設計する必要はないんですよ。もちろん、お金を出して手に取ってもらえるものにするという「作る人」としてのバランス感覚のようなものはある程度必要なんですが、このイベントで出すものはそのバランスを考える割合を少なくしてもいいというか。

──

今はSNSで誰でも自分をさらけだそうと思えばさらけだせる、そのためのツールはたくさんある状態になっています。でも逆に、というかだからこそなのか、みんなおしゃれできれいな自分を見せるという方向にいっていますよね。

三迫

SNSではフォロワーが多い方がいいとか、そういうシステムが出来上がってしまっているから、その中で上に行きたいと思う人がたくさん出てくる。でも、そのシステムではすくい取れない気持ちや表現は絶対あって、そういうことをこのイベントはすくい上げようとしているのかもしれないですね。

三迫太郎さん(撮影:新原なりか)
──

中村さんは以前、「通りかかった人全員に来てほしいわけじゃない」ということをおっしゃっていましたね。それはまさに「フォロワーは多ければ多いほどいい」というのと真逆ですよね。わかってくれる人にちゃんと届けばいいという。

中村

私たちみたいに、「内臓」が展示されていたら「おもしろいな、きれいだな」と思う人に対しては大きく門戸を開いていたいですが、「うわ、内臓だ……」って引いちゃうような人に無理に来てもらおうとは思わなくて。

──

でも、近づいては来ないにしろ、通りかかった人にも「あそこでなんかやってる人たちがいるな」というのは見えているわけで、そういうものが街の中にあるのはいいなぁと思います。

さらけだし合うことは、受け入れ合い、愛し合うこと

──

1回目は参加者が女性だけでしたが、今回はキャッチコピーに「女や男やそうじゃないひとたち」と掲げていますね。

中村

1回目の開催前から、みんなでよくフェミニズムの話をしていて。戸籍上「女性」とされている人ばかりにオファーしたのは、当時は勘でしたが、振り返ってみたら「女性たちが自分を好きなようにさらけだしていくことって、めちゃくちゃフェミニズムだよね」ってなりました。

──

2回目は、誘いたい人を考えたら自然と「男性」も入ってきたという感じですか?

中村

いや、男性に入ってもらいたいというのは、はっきりした思いとしてありました。2回目をやる時に、1回目と全く同じことをしてもおもしろくないし、女性以外にも開きたいと思いました。女性だけでやっていると、同じクラスの仲良しグループのような感じですごく楽しい。でもずっとこれをやっているだけでいいのか?と。私はフェミニズムは男性のためのものでもあると思っています。今の日本では女性の怒りを表明するためのもののようになっていますが、それってすごく手前の段階だと思うんです。フェミニズムは本当はもっと懐の広い考え方だと思っていて、だから次は対話のフェーズをやってみたいと思いました。

松元

「女や男やそうじゃないひとたち」というキャッチコピーが私はすごく好きです。1回目にも、自分が女性なのかどうか疑問を持ちながら参加していた友達もいました。今回は「そうじゃないひとたち」というあわいを持たせることで、フェミニズムが目指していく「誰も排除しない」ということに一歩近づけたんじゃないかと思います。

三迫

まだ世の中は男性中心で回っているから、その中で女性がなにかを表現する時には、どうしても男性から見た女性らしさとか女性の良さみたいなことを汲み取ってやらないといけないこともあると思うんです。そこを離れて、安全で共感しあえる場所を1回目で作れたということなんだろうなと思います。だからこそ、2回目で開くことができた。世の中には男性も女性もそうじゃないひとたちもいるから、そこをどうまぜこぜにしていくかをこれから考えないといけないですよね。

中村

うん、まだ新しいフェーズに入ったというだけなので、これからですね。でも、三迫さんが言ってくれたように、安心できる場所だと言ってくれる参加者は多いですね。

三迫

僕もそう思いました。みんなのことを少しずつでも知って、この人たちだったらこういうことを書いても受け止めてくれるはずだって思えるから出せるものがある。

撮影:ヤマモトハンナ
中村

やってみて、さらけだし合いってやっぱり愛し合いだなって思ったんですよね。自分も見せるしあなたのも見るから受け入れられる。他の人の書いたものを読むと、自分では感じないようなことが書いてあるんですけど、みんな苦しんだり、いつもと違うことに挑戦してみたり「さらけだす」に向き合って勇気を出して制作したことが分かる。だって自分も同じように向き合って勇気を出して書いたから。その中で見せ合うものは、もう全てに対して「いいじゃん!」「よくやった!」みたいな感じで、すごく優しい心でしか読めないんですよ。それは参加者同士の感覚だけれど、その感じは見に来てくれた人にもなにかしら伝わっていると思います。

──

はい。私も昨日いろいろなZINEを読んですごく勇気を感じて、ひとつひとつ適当に読むことはできないと思ったし、気づいたら自分も自分の「さらけだす」に向き合っていました。そういう、見に来た人が巻き込まれるような力がある場だったと思います。一方で、手元のZINEからふと目を挙げると、ピクニック全体の雰囲気はすごくおだやかで、みんなすがすがしい顔をしているように見えて、ほっと落ち着く。なかなかない体験でした。

中村

開催前にも、告知を見た方から「自分も出品したい」という問い合わせを何件か頂きました。先ほども言ったように、関係性がまだできていない人のさらけだしを私が預かるわけにはいかないので出品はお断りして、「あなたのコミュニティであなたのジンピクをやってみてください」とお伝えしてみています。これから、ジンピクを規格化していけたらおもしろいかも、なんて考えたりもしています。ジンピクがみなさんの道具になってくれたらいいなと。「これを守ればさらけだすZINEピクニックになるよ」という三箇条みたいなものを作るとかね。あとはそれぞれで解釈して好きにやってもらえればいい。知らないうちに開催されてたらちょっと寂しいから、いちおう「やるよ」ってことだけ教えてもらって、横のつながりができたりするといいなと思います。

三迫

全国でみんながピクニックしてさらけだしてたらおもしろいですよね。

松元

そう思います。でも、この「広がっていくといいですね」という話できれいにインタビューを締めるのはちょっと違う気が…… 昨日の余韻がもったいない……。

中村

うんうん。広がっていけばいいっていうのはひとつの小さな思惑であって。やっぱり大事なのは、参加者ひとりひとりが「さらけだす」というテーマに向き合った時間と成果なんですよ。この機会に表現をしたことがなかった人が初めて挑戦してくれたり、普段から表現をしている人が違う面を見せてくれたり、ジンピクによってなにかを得てくれた人が多いような気がしていて。特に、なにか作りたいけど作れないと思っていた人が、ジンピクによって初めて作れて、作りやすい環境だったと言ってくれるのは本当にうれしい。世の中では「表現する」ということが特別なことになりすぎていると思います。でも私は、均されていない、整地されていない表現がどんどん出てきて、作り手と読み手がカオスに混じり合っていくのがおもしろいと思う。だから、みんな〜やってくれ〜!!

撮影:ヤマモトハンナ

EDITOR

堤 大樹
堤 大樹

26歳で自我が芽生え、なんだかんだで8歳になった。「関西にこんなメディアがあればいいのに」でANTENNAをスタート。2021年からはPORTLA/OUT OF SIGHT!!!の編集長を務める。最近ようやく自分が興味を持てる幅を自覚した。自身のバンドAmia CalvaではGt/Voを担当。

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