Irish pub Shamrock ‘N’ Roll Star

Irish pub Shamrock ‘N’ Roll Star

Irish pub Shamrock ‘N’ Roll Star

日本最大級のサーキットフェス『MINAMI WHEEL』の舞台にして、関西有数のライブハウス密集地帯、心斎橋のアメリカ村。BIGCATから一本南の筋、SUNHALLの向かいの通りに、Irish pub Shamrock ‘N’ Roll Star(シャムロックンロールスター)はたたずむ。かくいう筆者も休日にはAlffo Recordsからハシゴしたり、CIRCUSのオールナイトイベントの前にこの店に幾度も足を運んでいるが、音楽、スポーツ、そしてビール、様々なきっかけでここに来たお客さん同士の分け隔てのない交流が日々生まれているのがこのアイリッシュ・パブだ。

 

今回マスターの宗京哲也(ムネキョウテツヤ)さんにお話を伺うことで、ただただビールやパブ、音楽が好きなピュアで打算のない彼の想いに惹かれ、様々な人々が集まる場所となっているのだと感じることができた。彼がこのアイリッシュ・パブに込めた想いの一端に触れて、ぜひ足を運んでみてほしい。あなたの「好き」が別のジャンルと繋がり育まれていく「公共空間(パブリック・スペース)」がここにはあるのだ。

営業時間

月〜金 17:00~
土日・祝 15:00〜
(不定休)

お問い合わせ

ギネスとの出会いで世界が変わった

──

宗京さんはパブやビールへの愛と造詣がすごいなといつも思っていまして。パブに通うようになったきっかけはあるんですか?

宗京哲也(以下、宗京)

それはもう全部ギネスに集約されますね。京都のPig & Whistleというブリティッシュ・パブが昔、梅田のお初天神にもあって、そこで飲んだのが初めてだったんです。その時に「なんやこのビールは!めちゃめちゃおいしい!」ってすごく衝撃を受けて。ギネスはアイリッシュ・パブを象徴するようなビールで、うちでもギネスから離れられないお客さんもいっぱいいますね。

──

そう考えたら僕もギネスばっかり飲んでますね。どこが魅力だと思いますか?

宗京

そうだよね(笑)。ギネスは待ってる時間もおいしいんですよ。カスケード・シャワーといって、きめ細やかな泡が上がって綺麗に黒と白に分かれていく過程を眺めるのも楽しい。「最高のギネスたる為の条件・規約」を満たした樽生ギネスのことをパーフェクト・パイント(完全なる一杯)といって、万全の設備でコンディションをキープし続けないと出せない樽生のギネスは特別な味わいがあるんですよ。本当にギネスしか飲まない人も結構いるし、まず駆けつけ一杯で飲んで、それから「今日、何飲もうかな」みたいな人も多いです。ギネスにはそういう魅力がありますよね。

──

いつもおいしく飲ませてもらっています!

宗京

ギネスは「スタウト」というスタイルのビールなんですけど、他にもパブに通ってるとイングリッシュ・スタイルの「エール」とかも必ずあって、英国で古くから親しまれているスタイルですね。アメリカでもはや定番の「IPA(インディアン・ペールエール)」なんかはもっとフルーティーなやつとか、草や土の味がするやつとかバリエーションがすごいんです。地球に近いってことでアーシー(Earthy)って言葉が使われたりもします。

──

アーシー!めっちゃかっこいい表現ですね。

宗京

クラフトビールの業界ではよく使われる言葉なんですよ。あと草っぽいグラッシー(Glassy)とか。飲んでみればわかるんですけど、それだけ色んな味や香りがあってビールは奥が深いんです。

──

近頃はクラフトビールも流行ってきているとは思うんですけど、世間一般の認識についてはどう思いますか?

宗京

僕の今の個人的な認識で言っても、まだまだかなって感じはしていますね。日本で一般的にイメージされるビールって、大手メーカーが出している「ピルスナー」っていう一種類のスタイルで、それしか知らずに「ビールは苦手」と言ってしまうのはもったいないなと。

──

ピルスナーも好きだけど、それだけではないことをここに通う中で知りました。

宗京

あと「生」って言ったら出てくる認識がまずよくなくて、ビールが「生」に集約されていて「何が出てきてもいい存在である」ってのはとても辛い。その認識を変えていかないといけないという危機感はありますね。あとパブに必要なのはサイダー。いまいち日本では人気がないですけど。

──

僕もサイダーはそこまで馴染みがないかも。

宗京

でも本当にサイダーはパブには必要な構成要素で、イギリスのパブにないことは考えられないんですよ。まずサイダーはアルコールが入ってないって日本では思われがちじゃないですか。

──

確かに炭酸飲料のイメージが強いですね。

宗京

世界的にサイダーといえばリンゴやベリー系とか洋梨とか、フルーツの発泡性の果実酒がサイダーなんですよ。それをもっと広めていきたいなと思っていますね。すごく甘くて飲みやすいのでぜひ!

世界各国でのパブ体験を日本にも伝えたい

──

日本でもパブ通いが日常だったそうですが、海外でも同じなんですか。

宗京

そうですね。当時会社員で、サンフランシスコ周辺のベイエリアに3ヶ月ほどいたんですよ。GoogleとかAppleの本社のすぐ近く。アメリカのパブは地元のクラフトビールだったり、ヨーロッパの主要なビールだったり、まずタップ(ビールの注ぎ口)の数が尋常じゃないんですよ。多いところで60タップくらいあって。

──

60タップ!想像もつかないです!

宗京

クラフトビールの専門店だったら普通なのかもしれないけど、アイリッシュ・パブでこんなに飲めるのかとびっくりして。毎日「何を飲もう」って楽しみにしていましたね。それでアメリカで得た体験を日本に持ち帰りたいなと思うようになって。だから「アメリカで見たアイリッシュ・パブ」がこの店のルーツなんですよね。

──

アイリッシュと掲げつつアメリカにルーツがあるんですね!地域によっても結構違うんですか?

宗京

そこはわりと自由なんですよね。もちろん本国アイルランドにも行ったし、オーストラリア、ニューヨーク、カナダのトロントとかも見て回ったけど、それぞれに違うんですよ。日本でもアイリッシュ・パブといったら生演奏もするってのが普通の感覚じゃないですか。基本的にはアイルランドのトラディッショナル・ミュージック、フィドルとかを使ったクラシックな感じが多いイメージで。その中でもオーストラリアで立ち寄った時はポップスを歌っていたり、アメリカではDJが居てクラブ空間になってたり、「結構なんでもありだな」って思いましたね。

──

言われてみると確かにShamrock ‘N’ Roll Starは、その一般的な「アイリッシュ」のイメージとは少し違う感じはしますね。

宗京

でも以前ここでアイルランドの方が「雰囲気や内装はあまりアイルランドっぽくないけど、ギネスとアイリッシュ・ウイスキーとあとはオーナーのハートがあればいいんだ!」って言ってくれて、それはとても心に残っていますね。これでよかったんだって。

──

それぞれのパブの在り方があるんですね。お店を始めようと思ったきっかけは何かあるんですか?

宗京

サンフランシスコから日本に戻ってからも2年くらいは仕事を続けてたんですね。でもアメリカに3ヶ月くらいいただけでもマインドが大きく変わっちゃうんですよ。それで日本の仕事の仕方にギャップを感じるようになって。

──

それはどういうところですか?

宗京

仕事の仕方は変わってはきているけど、残業している人間が評価されたりとか、まだまだ固定観念が強いなと思う部分が大きいです。一概には言えないけど、会社組織に限った話じゃなくて、日本の社会全体の動きが鈍いなと。あと、仕事にほとんどの時間を費やすことが当たり前となっている価値観にもすごく違和感があって。そういうことを考えているうちに辛くなってきて、一度環境を変えた方がいいなと思って会社を辞めたんです。それから世界各国を周ったり転職活動もしつつ、「パブを作るのもどうかな」と並行して考えながら、「自分が今どっちに傾いているか」という気持ちを大事にしました。チャレンジした方がいいなって。

──

海外で過ごす中で、パブの文化に触れるだけでなく、そういった日本とは違う価値観に触れたことも体験として大きかったんですね。

宗京

そうですね、常日頃お客さんとコミュニケーションをとっている中でも働き方や価値観の話題はすごく多いし、若いお客さんも多いので、僕が海外で体験したことは伝えていきたいなと思っています。それでありがたがってもらえるのもいいなって思ってやってますね。

パブには僕が好きなものがすべて揃っている

──

「パブ」という部分にすごくこだわりをお持ちだと思うのですけど、同じお酒を扱う店でも「居酒屋」や「バー」ではなく「パブ」にどのような思いがあるのでしょうか。

宗京

辞書を引いたら「Pub(パブ)」は「居酒屋」って書いてるんですよ。海外でも「アイリッシュ・バー」って言い方もするけど、日本の社会でいういわゆる「バー」や「居酒屋」とは違うものとして捉えられるべきだなってのは持論ですね。

──

言葉の意味的には大きく違うわけではないけど、明確に差別化していきたいという事ですね。具体的に「パブ」だからこそ果たせる機能というのはどういったところにあるとお考えですか?

宗京

特に観光で来た外国人の方にとって、雑居ビルの上のほうにあるバーは入るのに勇気がいると思うんですけど、「ちょっと飲みたい」って思った時に一番入りやすい存在がパブだと思うんですよね。あとビールの種類だったり、音楽、スポーツ、そういうものが全部まとめて楽しめる場所。アメリカのパブなんて、モニターがズラーっと並んでいてアメフトと野球とサッカーが全部同時に流れている……。あれがやりたかったんですよ。

──

人によってはサッカーに熱狂しながら、ふと横を眺めてみると野球もアツい。多様な楽しみ方があって面白いですね。

宗京

個人的な面はあるかもしれないけど、僕はここに一生いてもまったく飽きない空間になるわけですよ。やっぱりオフの時間に過ごす場所はそういう空間が一番いいに決まってるじゃないですか。僕にとってはパブがライフスタイルの中で一番快適な空間だったんです。いろんなパブはあるけど、大体そこに行けば僕の好きなものがすべて揃ってるんですよね。

──

いろいろ置いてくれてるから、フラーっと寄ってフラーっと過ごして。目的がなくても誰でも気軽に入りやすいなと思います。バーカウンターに立っている中で何か感じるところはありますか?

宗京

「誰が来てもいい公共空間」というのはパブ(パブリック・ハウス)の大きな特徴で、それは意識していますね。うちだと海外の観光客が家族連れで入ってきたりもするし、中には赤ちゃん連れのケースもあって。奥のソファーでオムツを替えてた事もあるし、テーブルに離乳食が広げられてた事もありました。「パブだからこそこれが出来るんだよな」って思うんです。

──

それは素敵なエピソード。一般的なバーに家族連れが馴染むとはあまり思えないですからね。集まる客層という部分も広くおおらかに捉えている感じがします。

宗京

周りに迷惑さえかけなければ思い思いに好きに過ごしてもらっていい、パブはそんな公共空間だという在り方は大切にしていますね。

ビール、音楽、スポーツ…… 様々なきっかけから自然とはじまる交流

──

そういった意味ではこの店の機能の中でも音楽はとても大きな要素ですよね。

宗京

お客さんは並々ならぬ音楽好きが多いので、その皆さんに育まれたような感じはあります。僕では到底敵わないお客さんもいっぱいいて、いろいろ教えてもらえるからすごく助かります。

──

それには僕も入ってんのかなと思っておきます(笑)。

宗京

僕も長年ロックのシーンにどっぷり浸かってきたけど、そういう人が集まるとめちゃくちゃ楽しいだろうなと思って決めたのが、うちの屋号とロゴなんですよ。見ての通りOasis(オアシス)の曲のタイトルがモチーフで、わかる人にはすぐわかる(笑)。ギャラガー兄弟はマンチェスターの人だけど実はルーツとしてはアイルランドからの移民なんですよ。あとアメリカのアーティストも3月17日にめっちゃ「Happy St. Patrick’s Day※」のツイートをするでしょ?あれも「Happy Halloween」と同じくらいアメリカには根付いていて、日本と比較したときに、イギリスにもアメリカにもアイリッシュはごく普通に偏在しているんですよ。

※聖パトリックの祝日。アイルランドにキリスト教を広めた聖パトリックの命日。シャムロックを服につけミサを行ったり川や電飾を緑に染めるなど、本国以外でもアイルランド系移民の多い地域・都市で盛大に祝われる。

──

必ずしもアイルランド国内だけではなく、いろんなところに広がってるんですね。

宗京

だから「何かOasisを絡めてやろう」と思い、アイルランドの象徴のシャムロック(マメ科のクローバー)と組み合わせて、「Shamrock ‘N’ Roll Star」という屋号を決めたんですよ。

──

なるほど、アイリッシュのルーツから広がっていくという感じですね。宗京さんが繋いでくれる部分も大きいですけど、ここに来るとみんな当たり前に音楽の話になるのが面白いなと思っていて。知らない人でも「ここに集まる人」という共通認識で話せるというか。それも先ほど話したハブの在り方だなと。

宗京

まさにそうですよね。初対面でもすごくマニアックな会話をしたり、一言も喋らないで帰る人も純粋にビールや音楽を楽しんでるケースもあるだろうし、話さずともコミュニケーションが取れてるのはいいことだなって思います。

──

自然とそういう空気が醸成されているのはとてもいいですね。ビールや音楽だけでなく野球とかサッカーとか、いろんなきっかけからこの店に来ると思うんですけど、その中でも化学反応がありそうですね。

宗京

サッカー日本代表の試合を観に一見で来てくれたお客さんがいるんですけど、そこでたまたまSigur Rós(シガーロス)のポスターが貼っているのを見て、「え、来日してたんすか!」みたいなところから話が弾んだり。あと大阪のクラフトビール店を載せたマップを共同で出資して作ってるんですけど、それを見て来てくれたお客さんがめっちゃPhoenix(フェニックス)が好きだったりとか、そんなこともありましたね。

──

入り口はサッカーやビールだけど、実は音楽もとても好きというか。

宗京

音楽が好きで来てくれて、ビールにハマってくれた人も多いと思いますね。普通に生活している中では出会えなかった人やものへ出会うきっかけになってるかなって。元々ウイスキーが好きだった人が完全にビールばかり飲むようになったりとか。それはしてやったり感もありますね(笑)。

「好き」が溢れるファンイベント

──

「好きという気持ち」で集まって、それが自然と別の分野にも繋がっていく場所があるというのはとても素敵なことだと日々通っていても思います。その流れでお伺いしたいんですが、ここでは色んなアーティストのファンの方々が集ってイベントを立ち上げていますよね。

宗京

始まったきっかけとしては、別のイベントに来てくれた人が「MUSE NIGHTをやりたい」という話をTwitterに上げてるのを見つけたんです。「会場はもちろん当店でお願いします!」って即行で返しましたよね。それから、一緒にやる人を呼びかけて、うちで何回もミーティングして。みんなDJブースの使い方も知らなかったからそれは僕が教えたり。

──

その段階からだったんですね。今ではまったく想像がつかない。

宗京

そういう意味でファンイベントって呼び方がしっくりくるのかな。技術うんぬんじゃなくて、やってる人たちの愛が詰まってる。

──

そうそう、愛一直線な感じがひしひしと伝わってきますよね。

宗京

いつも装飾なんかもとんでもないものになって、完全に僕の想像を超えてくる。好きって気持ちがいつも溢れんばかりで、空間としてはすごくいいものができてますよね。あと選曲もレアトラックを流したり、アーティストのルーツを辿ってすごく考えながら選んでいたり。メンバーの解説を張り出したり、絵を描いたり、色んなことをしてますよね。

──

僕だったら文章を書くことになるんですけど、DJだったりファンアートだったりコスプレだったり、いろんな愛の示し方があるんだなと毎回感銘を受けます。

宗京

これは100%お客さんたちのおかげで、僕が日々いろんなものを広く知ってもらいたいと考えていることとも合致するのでとてもありがたいですね。それがきっかけで聴くようになってくれたり、来日公演が決まって盛り上がったり。連動して動いていくのはとても楽しいです。

──

自然とみんな感じとってるんじゃないですかね。好きなものが集まる場所だっていう。

宗京

そうだったら嬉しいですね。あと実はビールを絡めたメタルのイベントもやっていて。アメリカのブルワリーとパンクやメタルのシーンは結構繋がりがあって、コラボ商品を出したり、中にはメンバーが自分で醸造していたりもするんですよ。それでMetallica(メタリカ)やDeftones(デフトーンズ)のビールが手に入ったから、それを開栓するタイミングでメタルばっか流そうという。

──

それはめちゃくちゃ面白そう!好きな音楽を媒介にビールの世界にも自然とアクセスできるのはすごくいいですね。今年3周年を迎えられましたが、これまでを振り返ってみていかがですか。

宗京

とりあえず店舗経営としてはそんなに楽ではないなって部分はあります。助けてくれたお客さんやファンイベントには感謝してもしきれない。「ここと同じくらいおいしいギネスが東京では飲めないんですけどどこ行ったらいいですか?」とか「ここがなくなったら困る」って言ってもらえたりするのはすごく嬉しい話で。

──

それは僕も思いますね。それこそOasisやMuseもそうなんですが、ライブ会場やSNS上には好きな人がいっぱいいても、日常生活の中で熱心なファンと出会える機会はほとんどない。そういう意味でも存在として代替不可な場所だと感じています。

宗京

スペシャルな場所は作れたかなと思ってます。あとはここにノエル・ギャラガーが来店するなんてことがあったじゃないですか。あれは偶然でしかないけど、今までずっとよくしてもらってきた皆さんには最高の恩返しができたなと。あんなことはここを始めないと起こり得なかったことだから、始めてよかったなと強く感じていますね。みんなには「弟が来るまで頑張ってくださいよ」とか言われますけど(笑)。

──

そんなことがあったら最高じゃないですか!ぜひまた飲みながらいろいろ聞かせてください!

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EDITOR

乾 和代
乾 和代

奈良県出身。京都在住。この街で流れる音楽のことなどを書き留めたい。好きなものは、くじらとベース。

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堤 大樹
堤 大樹

26歳で自我が芽生え、なんだかんだで8歳になった。「関西にこんなメディアがあればいいのに」でANTENNAをスタート。2021年からはPORTLA/OUT OF SIGHT!!!の編集長を務める。最近ようやく自分が興味を持てる幅を自覚した。自身のバンドAmia CalvaではGt/Voを担当。

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