だから、香港生まれ香港育ちの3人が創業した MAK’S BREWERY を見つけた時は「ここしかない!」と胸が躍ったのです。さらに興味を惹かれたのは、彼らのインタビューやクラフトビールの紹介記事を読んでみると、味や風味の特徴を描写しようとはせずに、何度も何度も ”a taste of Hong Kong(香港の味)” という表現が使われていたこと。
「香港の味」ってなんだろう?
その広義的な表現に彼らが込めたこだわりと想い、そしてその味をつくるために欠かすことのできない地産の素材と香港カルチャーの結びつきについて、MAK’S BREWERYの醸造家のひとりである Philip Wong(フィリップ・ウォン) さんに話を聞いた。
自社のクラフトビールを紹介されている記事をいくつか読んだのですが、何度も何度も ”a taste of Hong Kong(香港の味)” という表現を繰り返し使いながら説明されていたことに強いこだわりを感じていました。それは、皆さんがつくりたかった香港産のオリジナルビールのことだったんですね。
フィリップ
ええ。実は「香港の味」と言い続けることにこだわりを持つきっかけになった印象的な出来事があって……。
地元で採れる素材を使ったクラフトビールをつくりたいと、とある小さな村からブルワリーを訪ねてきた人がいました。ひと通り説明を受けた後にどんな味のビールがつくりたいのか聞いてみたのですが、その時に返ってきたのが ”a taste of the villege(その村の味)” という答えで。素材の特性ではなく村の味をつくりたい。その想いと発想にはっとさせられました。
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”a taste of villege” も ”a taste of Hong Kong” も広義な表現ですよね。地元の材料や素材からつくり出される味のことも含むだろうし、クラフトビールを飲むことで思い出されるシチュエーションや風景も含まれると思うし。”taste(味)” と言っても所謂知覚的な味ではないというか……。
さまざまな理由で今の香港には外国へ移住することを選択する人たちがいます。いつか彼らがMAK’S BREWERYのクラフトビールを飲むことがあれば、その時は故郷を思い出してほしい。道端やタクシーの車内で嗅いだギンコウボクの香りや、お母さんのスープ。それが “a taste of Hong Kong” なんだと思います。
01/12
飲んでくれた人がビールと共に過ごす時間に携われる、それがつくるよろこび
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3人で始めてから7年が経ち、ブルワリーだけでなくレストランやバーも経営されています。”Do It Yourself” ではなく “Do It Together” で活動するからこそ得られることはなんだと思いますか?
フィリップ
誰かと一緒に活動していると、時に信じられない不思議なパワーが生まれることがありますよね。クラフトビールを通してそれまでまったく知らなかった人同士が集まり、お互いを知って友人や兄弟のように強い結束力で結ばれていく。そして今、こうして一緒にMAK’S BREWERYの一員になっている。その奇跡的な出来事が Do It Together の強みでありよろこびかな。