ケガニ君へ
パリの街ってどんな街なんだろう。
多くの人が観光でしか行かない場所だと思っていて、それってすごくもったいないなと感じてる。せっかく今ケガニ君はパリに住んでいるみたいだから、インディーズの音楽や、地元の人がアートにどうやって接しているのかアンテナ使って教えて欲しいんですよ。
なんか真似できそうなアイディアとか、面白いものがあるんじゃないかなと勝手に思ってるんだよね。
堤
物語自販機のこと
年の瀬ですね。
わたくし、ケガニは12月でパリに来て1年と3か月になります。
観光で来るのとは違って、生活していく中で見つけたカルチャーの動きについて本企画ではお伝えしていきます。
最初に、こちらの写真を見ていただきたい。
見てください、この宇宙的なフォルム。
近未来っぽいボタン式インターフェイス。
いったいこれ、なんだかご存知だろうか。
実は「物語自販機」とでもいうべき機械なのだ。
1分、3分、5分という三種類のボタンを押すと、こんな紙片がカタカタ……と印刷される。
死ぬほど買い物した長いレシートみたいなものである。
書いてあるのは実は「物語」で、インプットされているものは5万通り以上。
小説投稿サイトが提供しており、若手小説家がデビュー前に書いたりしているそうだ。
選出は相互投票によってなされ、一応さらに軽いセレクションもあるようでクオリティは保証されている。
どうしてこんなものがあるのかというと、待ち時間の暇つぶしのためである。
電車や病院、企業などの待合室に置かれて、待ち時間に合わせてボタンを押す。
するとそれに合わせた長さの「物語」が出てくるという寸法だ。
もともとはShort Éditionというスタートアップ企業の発案だが、気に入られて各国で使用されているようだ。
その名も短編出版だから、言いえて妙である。
(確認したかぎりではアメリカ、イギリスにもあるようだ)
実用は2年ほど前からだが、地下鉄駅への配置は最近らしい。
筆者はなんだかファミレスの卓上おみくじを思い出してしまった。
お金がかかるからやったことはたしか一回きりなんだけど、子どものころなんだか惹かれたなぁと懐かしい。
電子書籍やアプリがたくさんあるのだから、そっちでいいじゃないという人もいるだろう。
それこそ実際に投稿サイトにアクセスすれば同じものが読めるわけだ。
だが、なんとなく、「紙がいい」のだ。
バズったツイート、そのとき
そう思った人がたくさんいるようで、この写真をツイートしたところ、最大で「リツイート」を5.7万回、「いいね」を9.4万回いただいた。いわゆるバズったというやつだ。
写真はバズっている途中のもの。
この時点でツイッター瞬間風速のランキングに登場している。
僕自身、このマシンのことを友達から教えてもらったのでみんな知っているのかと思ったら、こんなに反響があって驚いた。
「ゴミが増えそう」とか「すぐ壊れそう」といった管理面でのコストに対する指摘はあったものの、ほとんどが「日本にもほしい」とか「読みたい」「書きたい」といった肯定的な反応だった。
(直後から2日間くらいは通知が鳴りやまず、携帯電話がほかの用途に使えないくらいだった。通知を切ってしまえばいいのだがなんとなく面白くてそのままにしていたら、電池の減りがすさまじかった)。
最終的には矢野顕子さんや松尾貴史さんにリツイートされていた(!)。
がんばっても一生会えない人とまさかこんな感じですれ違うとは……と驚いた。
たしかに、フランスは公共設備や機関の不備が多く、遅延や故障など日常茶飯事なのだが、その解消としてはななめ上の発想。
ちょっとクスッとしてしまうところがフランス的なエスプリなのかなと思った。
ちなみにリプライで教えてもらったのだが、アシモフの小説「裸の太陽」で同じようなサービスがあったそうな。
AIによってこういった物語自身も作られる時代が来ていると考えると、人生の時間自身が「暇」としてつぶされてしまう……というちょっとしたディストピア物語さえ想像してしまう。
おわりに
ちょっとした発想でみんなを和ませるというのがいかにもフランスらしい。
こういった面は音楽や絵画などのカルチャーにも受け継がれている。
次回以降もこうした細かいものを続々と取りあげていく予定です。
来年もぜひよろしくお願いします。
いい年にしましょう!