見てきた映画は数知れず。本人すらも分からない。(1万本を越えてから数えるのをやめたから)人呼んでシネマジプシー・川端安里人。彼から「旧友に「映画を撮ろう」と誘われて、ロケハンでにアメリカへ行ってきた」と、アンテナ編集部に連絡と原稿が届いた。目に映るのものがこれまで見てきた映画とリンクする彼が、南米で見てきたものはどんなものだったのでしょうか。
全9日分の記録をお楽しみください。
2018年8月某日、日本からサンフランシスコへ旅立つ。
サンフランシスコに向かう11時間ほどのフライトの間、この旅がなぜ始まったのか思い返す。きっかけは本当にふとしたことだった。カナダに住む大学時代の友人O君から突然「車を買ったから、その車を使って映画を作りたい」とメッセージが届いた。O君は大学時代から合成やCGIの技能に優れていて、今やハリウッドの『ブラック・パンサー』や『ジャスティス・リーグ』といった大作映画でCG作成を生業にしている。大学時代は彼の作る映画のお手伝いも何回かしたし、彼とは「このB級ホラー映画が面白い!」なんて馬鹿話をいくらでも続けられる仲だ。
その場のノリで、自分はちょっとしたプロットを書いた。『ザ・カー』や『クリスティーン』みたいな呪われた車が人を襲うお話だ。そのプロットをO君が気に入り、あらすじであるプロットがちゃんとした脚本になり、気づけばロケハンに行こうよとトントン拍子で話が進んだ……。今回のこのロケハンは、ニューオリンズで合流してエルパソまで行く約2000キロのドライブ旅行となった。
こうしてとりあえずサンフランシスコにやってきたわけだが、残念ながらここは目的地ではない。ニューオリンズへ乗り換える間の暇つぶしだ。ニューオリンズでO君と合流する前に、ここでトラブルに巻き込まれたり、途方にくれるような事態にはなりたくないので、ひとりで大人しく観光バスで街を回ることにした。
アメリカやヨーロッパの都市部では観光地を巡る『Hop On Hop Offバス』が街中を回っている。チケットを購入すれば、24時間以内乗り降り自由なバスだ。運転手のおじさんが映画好きだったのか、それともそう言えと言われているのか知らないが、やたら映画の話をしてくれた。
「ここがコッポラの『カンバセーション-盗聴』の舞台になったマンションだよ」
「『フルハウス』ってドラマ知ってるでしょ?あの家はこの坂の上だよ」」
こんな感じで。はからずとも、映画にまつわる旅になるのが、なんとも自分らしい。
今までスクリーン越しにしか見たことのなかった風景に感動しながらも、傷痍軍人の人たちがやたら目についた。外でタバコを吸っていると片足が義足のおじさんがタバコをくれと言ってきた。「もちろん」と答えてタバコを差し出す。返事は「センキューサー!」だ。戦争、テロ、移民問題、貧困格差、もちろん本や映画で知ってはいたけどいざ目にしてみると、思っていた以上にアメリカは疲弊した国だと気づいた。
自分はよく何人なのかよくわからない外見だと友人たちから言われる。今回の旅でも早速その手の話になった。
ゴールデンゲートブリッジでバスを一度降りるとき、スペイン語を話す南米系と思われる一家に続いて降りると、その一家と自分を見ながら「家族旅行かい?」と聞いてきた。自分は違う。
また空港に戻る時に乗ったタクシーの運転手のおじさんは、2015年にアフガニスタンから移住してきたらしく、「俺たちの故郷はきっと近所だぜ」と言ってきた。「日本人なんだけど」というと困った顔をして「まぁ、広い目でみればアジアだよ兄弟」。どうやらアメリカ人からでも何系かよくわからない外見らしい。それが吉と出るか凶と出るかはまだわからない……。
そうこうしているうちに、サンフランシスコでのトランジットの時間は終わり、O君と合流するニューオリンズへと向かう。
2日目の記事はこちらから