【シネマジプシー】アメリカ、ディープサウスぶらり旅4日目

【シネマジプシー】アメリカ、ディープサウスぶらり旅4日目

【シネマジプシー】アメリカ、ディープサウスぶらり旅4日目

見てきた映画は数知れず。本人すらも分からない。(1万本を越えてから数えるのをやめたから)人呼んでシネマジプシー・川端安里人。彼から「旧友に「映画を撮ろう」と誘われて、ロケハンでにアメリカへ行ってきた」と、アンテナ編集部に連絡と原稿が届いた。目に映るのものがこれまで見てきた映画とリンクする彼が、南米で見てきたものはどんなものだったのでしょうか。

 

全9日分の記録をお楽しみください。

【シネマジプシー特別編】アメリカ、ディープサウスぶらり3日目の記事はこちらから

テキサス入りとダニー・グローバー似の男

ヒューストンまで高速を使ってまっすぐ走ってもよかったのだが、それではあまりにも味気ない。テキサスに着けば内陸続きのドライブになるのだから、と僕たちは南下してメキシコ湾沿いを遠回りして走ることにした。海に向かう間、何度も湿地帯の横を通る。本当に人がいない。ここでもし何かトラブルに巻き込まれたら、それこそ本当に孤立無援だ。

 

そんな状況下で思い出したのは『サザン・コンフォート』という映画だ。軍事訓練で湿地にやってきた民間兵が現地人とトラブルになり、やがて血で血を洗う戦いに巻き込まれるというバイオレンス映画である。『エイリアン』シリーズの仕掛け人で、『ストリート・オブ・ファイヤー』のリバイバル上映も記憶に新しいウォルター・ヒル監督作なもんだからこれがむちゃくちゃ面白い。この『サザン・コンフォート』は、劇場未公開作だが『ブラボー小隊 恐怖の脱出』、『ダーティアーミー/対決!悪魔のカルト集団』(ひどいタイトル)とタイトルを変え、何度もソフトが出ているのも隠れた人気作の証拠だ。この映画を見ていてアメリカ人は自国の田舎をよくこんな恐怖の対象にできるよな、と思ってきたのだけれど、いざやってくると思っていた以上に辺鄙な場所なのは間違いではないなと思った。

今更の話だがこのレンタカーにはカーナビが付いていない。スマホのGoogleマップを頼りに進んできたところで、O君がこの先の川に橋がかかっていないことに気づく。引き返せば4時間程のロスになる。「ナビがこの道でいけると言っているのだから」と進んでみると、そこには小さな波止場があった。車で待っていた近くの人に聞いてみると、15分ごとに車を運ぶフェリーが往復しているとのことだ。フェリーで渡った先はメキシコ湾岸の道だ。綺麗なビーチもあるのに場所が辺鄙だからか誰もいない。

今回の旅は出発地のニューオリンズと、目的地のエルパソしか寄る場所を決めていない。一応ロケハンも旅の目的なので、都会で遊ぶのではなく田舎道を突き進むほうがメインだ。次の日はとある名作ホラー映画のロケ地を探訪するという目的があるので、少し北上することに。気づけばもうテキサス州に入っていて、今日は早めに宿を探すことにした。

泊まることにしたブレナムという小さな町は、まさに理想的なアメリカの田舎町といった趣であった。不勉強なもので全く知らなかったのだが、西部開拓時代からある歴史のあるスモールタウンだった。街には煉瓦造りの古い建物にグラフィティアートが印象的だ。

この街をすっかり気に入った僕たちは、モーテルにチェックインして街を散策することにした。モーテルのロビーで書類をペラペラめくりながら、何かをしていたダニー・グローバー(『リーサル・ウエポン』シリーズのマータフ刑事とか、『プレデター2』の主人公)そっくりのおじさんが話しかけてきた。

ダニー・グローバーそっくりおじさん

「どこから来たんだい?」

「日本ですよ、友達の方はカナダに住んでるけど、彼も日本人」

ダニー・グローバーそっくりおじさん

「やっぱり!そうだと思ったんだ!実は横浜に住んでたことがあってね!」

なぜかテンションが上がって嬉しそうなダニー・グローバーそっくりおじさんは、突如身の上話をはじめる。「イントネーションが日本っぽいなと思ってたんだよね!」止まる気配はなく嬉々として喋り続ける。これにはO君共々苦笑い。結局一時間以上まくしたてたダニー・グローバーそっくりおじさんは「今俺んちに日本人いるから連れてくるわ!」と言い残すや否やどこかに去ってしまった。

 

悪い人ではなさそうだけれども、なぜこの人の家に日本人が?という疑問が湧き上がる。さらにO君が以前デンゼル・ワシントン似のお兄さんから、足の間にある立派なものを見せられた上に、迫られたという話が頭を過ぎる。

 

さてどうするかと、O君と話し合いをした。男2人旅だと勘違いされることは珍しくない。もしこれでムキムキのおっさん5人くらいを連れてこられたら為す術はないから、今のうちに逃げるのも一つの手だ。ただもし話していたことが本当なら申し訳ないことをしてしまう……気がつけばもう日も暮れていた。

そうこうしている間におじさんが帰って来た。

 

「こんばんは!日本から来られたんですか?いきなり日本人がいるからついてこいと言われて正直びっくりしました」

 

車から降りて来たのは、本当に日本人の好青年Aくん。A君も僕たちと同じ気持ちだったようだ。話を聞くと彼はこの街のコミュニティカレッジに通っているらしく、この街で日本人に会うのは初めてとのこと。最初はこのモーテルから学校に通っていたけれど、このモーテルのエアコンなんかの機械を管理しているダニー・グローバーそっくりおじさんが居候させてくれたことを話してくれた。

 

なんだ超良い人じゃん。一瞬でも疑った自分が少し恥ずかしくなった。しばらく話し込んでいるうちに、気づけば結構良い時間に。今思えば連絡先の一つでも交換したらよかったものを、腹ペコだった僕たちはご飯を食べに行くためA君と別れた。

街のはずれにあるメキシカンレストランに入り、チミチャンガを注文。「『デッドプール』でチミチャンガを知ったんだけど、日本で売ってるところが見つからないから念願の初チミチャンガだよ!」そう伝えると、店員のお姉さんは「ここのは絶品よ!召し上がれ」とニコニコだ。

 

テキサス南部は排他的だって聞いていたけど、良い人ばかりじゃないか。これから行く先でもそうであってほしいと願いながら食べたチミチャンガは、本当に美味しかった。

5日目の記事はこちらから

【シネマジプシー特別編】アメリカ、ディープサウスぶらり旅5日目

WRITER

川端 安里人
川端 安里人

1988年京都生まれ
小学校の頃、家から歩いて1分の所にレンタルビデオ屋がオープンしたのがきっかけでどっぷり映画にはまり、以降青春時代の全てを映画鑑賞に捧げる。2010年京都造形芸術大学映像コース卒業。
在学中、今まで見た映画の数が一万本を超えたのを期に数えるのをやめる。以降良い映画と映画の知識を発散できる場所を求め映画ジプシーとなる。

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EDITOR

岡安 いつ美
岡安 いつ美

昭和最後の大晦日生まれのAB型。大学卒業後に茨城から上洛、京都在住。フォトグラファーをメインに、ライター、編集等アンテナではいろんなことをしています。いつかオースティンに住みたい。

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