【シネマジプシー】アメリカ、ディープサウスぶらり旅9日目

【シネマジプシー】アメリカ、ディープサウスぶらり旅9日目

【シネマジプシー】アメリカ、ディープサウスぶらり旅9日目

見てきた映画は数知れず。本人すらも分からない。(1万本を越えてから数えるのをやめたから)人呼んでシネマジプシー・川端安里人。彼から「旧友に「映画を撮ろう」と誘われて、ロケハンでにアメリカへ行ってきた」と、アンテナ編集部に連絡と原稿が届いた。目に映るのものがこれまで見てきた映画とリンクする彼が、南米で見てきたものはどんなものだったのでしょうか。

 

全9日分の記録をお楽しみください。

【シネマジプシー特別編】アメリカ、ディープサウスぶらり8日目の記事はこちらから

白い砂漠とチャック・ノリス

アラモゴードから20kmほど進むと、ホワイトサンズ国立公園という砂漠地帯がある。名前の通り真白な砂漠がどこまでも続く異様な風景が広がっており、デヴィッド・ボウイ主演作として知られるSF映画『地球に落ちて来た男』で、ボウイ扮する宇宙人の故郷の星という設定でロケが行われた場所でもある。今日はO君がカナダに帰る日なので、レンタカーを昼までにエルパソで返却しないといけない。僕たちは早朝この場所を訪れた。

どこまでも広がる白い大地は朝一番で訪れたためか、人もまばらで幻想的だなんてチープな言葉しか頭に浮かんでこないほどの風景で、いつぞや訪れたアイスランドの風景を少し彷彿とさせた。ここならちょっとカメラを回すだけでSF映画が撮れそうだ。何時間でもこの砂漠を彷徨い歩きたい気持ちをぐっとこらえ、1時間ほど白い砂丘を堪能した僕たちはエルパソへと向かった。

エルパソという町のイメージは映画内において悪く描かれることが多い。古くは『ゲッタウェイ』や『ローリング・サンダー』、最近タランティーノの映画では銃撃戦の舞台になったりしていた。実際この町は戦場を除いた地上で最も危険な街と言われているメキシコのシウダード・フアレスと橋一本で繋がった隣町なのだ。『カルテル・ランド』や『ボーダーライン』あたりの映画を見てメキシコの麻薬戦争はシャレにならない状態だと僕たちは知っている。

 

どんな町かと少し身構えながら町を訪れると、エルパソもまた他の町と同様にとても平和な空気が漂っていた。ピクニックをしている親子に日向ぼっこしているおじさん、日本にいる誕生日を迎えた友人にビデオ通話でサプライズを仕掛ける僕たち。ここには確かに平和な日常が存在していた。高台からメキシコとの国境が見渡せた。

車を返却した僕たちは、ダウンロードしたてのUberでプラザシアターに向かった。ここは1930年に建てられた古い古い劇場で、なんとアメリカ国内で初めてエアコン完備でオープンした映画館だそう。ここで行われているクラシックフィルムフェスティバルで国境映画特集を見るのが旅のシメである。

O君のフライトの時間もあるので見れる映画は一本だけ。見ることになったのは『テキサスSWAT』というエルパソで撮影された、チャック・ノリス主演のアクション映画だ。司会のおじさんが子供の頃この映画のロケがあって、チャック・ノリスが住んでいるという設定の家を子供達はみんな見に行ったりしたという話なんかをしていた。

 

もちろん自分は随分昔に見たことがあるので再視聴だし、O君はDVDを持っている。しかしエルパソの古い劇場で、さらには35mmフィルムで観るそれは全く違うもののように見えた。旅のシメがチャック・ノリスかよと侮るなかれ、やはり映画館というのはある種の教会、儀式の場であって、それがたとえお馬鹿な映画でも良く見えてしまうという魔法を僕たちにかけてくれたのだ。この旅が平和で素晴らしいものになったのはチャック・ノリスのご加護のおかげだ!さすが伝説の男!

劇場を出る頃には夏の暑さと映画の熱さで少しやられてしまったけれど、そのまま僕たちは国境線へと向かった。この先がメキシコ、シウダード・フアレス、麻薬戦争の最前線、トランプが壁を作りたがってるところ……のはずなんだけれども、そこは買い物を楽しむメキシコ人家族たちで賑わっていた。雰囲気だけメキシコを少し味わった僕たちはエルパソ空港へと向かった。映画のロケハンのはずがそっちのけで旅を満喫した僕たちは、再び2人でアメリカで旅することを約束して、各々の帰路に着いた。

さて、自分がプロットを書いた映画はいつ撮影が始まるのやら。

WRITER

川端 安里人
川端 安里人

1988年京都生まれ
小学校の頃、家から歩いて1分の所にレンタルビデオ屋がオープンしたのがきっかけでどっぷり映画にはまり、以降青春時代の全てを映画鑑賞に捧げる。2010年京都造形芸術大学映像コース卒業。
在学中、今まで見た映画の数が一万本を超えたのを期に数えるのをやめる。以降良い映画と映画の知識を発散できる場所を求め映画ジプシーとなる。

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EDITOR

岡安 いつ美
岡安 いつ美

昭和最後の大晦日生まれのAB型。大学卒業後に茨城から上洛、京都在住。フォトグラファーをメインに、ライター、編集等アンテナではいろんなことをしています。いつかオースティンに住みたい。

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