文化の入口はどこだ? – 珈琲×プロの選書が光る本棚編 –

文化の入口はどこだ? – 珈琲×プロの選書が光る本棚編 –

文化の入口はどこだ? – 珈琲×プロの選書が光る本棚編 –

「文化の入口はどこだ?」とは?

珈琲を飲んでふぅっと肩の力を抜くひと時、ついつい人は店内に佇む本棚に目を向けてしまうもの。なにげなく手にとった本から知識を身につけたり、新たな発見があったり……気づかないうちに様々なカルチャーに触れています。珈琲はそんなカルチャーとの「入口」をつくってくれるものです。

 

喫茶店の本棚は、お店の個性や雰囲気を醸し出したり、ギャラリーとして機能したりと様々な役割を担っているのでは?そこでアンテナでは、関西エリアを中心に「本棚のある喫茶店」にインタビューを行う企画をスタート。人は珈琲を入口に、「どんなカルチャーを受け取るのか」、「お店の本棚はどんなものを具現化するのか」について模索します。

大阪、大正駅前の路地を入ったところに、一軒の小さな珈琲店があります。2016年4月にオープンした〈井尻珈琲焙煎所〉は、外の喧噪が嘘のように静かな時間が流れている場所。店主の井尻健一郎さん自ら焙煎した深煎り珈琲を、レコードの音とともに楽しむことができます。もともと古い喫茶店だったという物件を改装した店内は、控えめな照明や品よく生けられた花、井尻さんが珈琲を淹れる所作まで何もかもが美しく、自然と呼吸が深くなっていくような居心地のよさ。日ごろの忙しさを忘れて、穏やかな時間を過ごすのにぴったりの空間です。

 

このお店は、珈琲を飲みながら音楽を聞いたり本を読んだりして過ごす「自分の家」のような場所だと語る井尻さん。お店の奥には小さな3段の本棚があり、本屋さんに選んでもらった個性豊かな本が並んでいます。「自分の家」の本棚を人に頼んで作ってもらった理由は、「本屋さんで本を見るのとは違った出会いがあるかもしれないから」なんだとか。

 

〈井尻珈琲焙煎所〉があったからこそ生まれた本棚。この本棚で、あなたにも新しい出会いがあれば幸いです。

住所

〒551-0002
大阪府大阪市大正区三軒家東1-4-11

営業時間

11:00-19:00

定休日

不定休

TEL

06-7503-5782

たまたま手にとった本に救われることがきっとある

井尻さんがお店を始める時から置こうと決めていたという本棚は、お客さんが自由に本を手に取ることができ、気に入れば購入も可能です。何度も通って1冊を読み切るお客さんがいたり、複数のお客さんが同じ本を読んでいることもあって、時々「本を買いたいけど誰かが読んでいるみたいだから、その人が読み終わったら言って」と声をかけてくる優しい方もいるんだそう。本棚が多くのお客さんに愛されていることがわかるエピソードです。

 

〈井尻珈琲焙煎所〉の本棚がユニークなのは、〈葉ね文庫〉、〈ホホホ座西田辺〉、〈ON THE BOOKS〉という3つの書店が選書しているところ。段ごとに担当が分かれていて、〈葉ね文庫〉の棚は新刊の詩や句集が中心、〈ホホホ座西田辺〉は古本、〈ON THE BOOKS〉は漫画が多めと、個性が光るラインナップになっています。本を補充しにお店を訪れた際に、本屋さん同士、他のお店の棚の並びを見て刺激を受けることも多いんだとか。本棚に書店名などの情報はないのですが、お客さんによってどの棚の本を手に取るかがはっきり分かれるのも、段ごとに別のお店がセレクトしているこの本棚ならではです。自分の好みはどの棚か、見比べてみるのも楽しいかもしれません。

 

それにしても、なぜ本棚を置いたのでしょうか。「本屋にはできないことが僕にはたぶんできるので」と井尻さんは言います。珈琲店にはさまざまなお客さんが来ます。本好きの人ばかりではないけれど、その分新しい出会いが生まれるかもしれない。お店でゆっくりと時間を過ごす中で、たまたま手にとった本に救われることがきっとあるはず。そんな思いで作られた本棚からは、実際に本を購入される方も多いそう。本の魅力が確かにお客さんに伝わっていることがわかります。

 

〈井尻珈琲焙煎所〉には、奈良のオンラインショップ、〈PASTEL RECORDS〉が選盤したCD棚もあります。本も音楽も、生活に豊かにしてくれるもの。「あんまりいっぱい棚を置いても空間的にうるさいけど、これくらいやったらちょうどいいと思うから」と笑う井尻さんのお話を聞いていると、一軒の珈琲店から優しく広がる文化の輪を、肌で感じることができます。

「本との出会いをお手伝いしたい」本屋さんからの声

今回、〈井尻珈琲焙煎所〉の本をセレクトしている3店舗にもお話を伺うことができました。どのお店も個性があふれていて、井尻さんとの関係性が伝わってきます。

※新型コロナ感染拡大防止のため、営業時間が異なる場合があります。詳しくはお店のWebサイトをご確認ください。

葉ね文庫

井尻さんがまだ出張珈琲人だった頃に知り合い、オープン時にお声がけいただきました。はじめは空間になじむ装丁でほっと一息つけるような内容のもの、という縛りで選書していましたが、詩や短歌の売れ行きが良かったので、今では詩歌界隈で話題の本や個人的に推している本を置いています。中でも、売れては補充を何度も繰り返しているのが『hibi』(八上桐子、港の人、2018年)です。誰が読んでもなにかを感じ取れる、素晴らしい句集だと思います。

 

他の書店さんの棚も、お店に行くたびに楽しく眺めています。それぞれに個性があって面白いんです!〈ホホホ座西田辺〉さん、〈ON THE BOOKS〉さんの棚があるので、安心して詩歌に偏ったセレクトができます。

住所

〒530-0015
大阪府大阪市北区中崎西1-6-36 サクラビル1F

営業時間

火・木:19:00-21:30、土:11:00-21:30

Webサイト

ホホホ座西田辺

まだ〈ホホホ座西田辺〉の店舗がなく、イベント出店や委託販売を中心に活動していた時にイベントでご一緒したのが初対面でした。2016年の夏ごろだったと思います。井尻さんが「よかったら本を置きませんか」と声をかけてくださって後日お邪魔したところ、お店の佇まいに感動して「ぜひ置かせてください!」とお伝えしたんです。

 

最初は「はたらく」だったり「愛」だったりとテーマを決めて選書していましたが、最近は「この本を連れて行ってみよう~」と直感で選んでいます。喫茶店でゆっくり過ごす時間って、心が満たされる素敵なひとときだと思うんです。そんな珈琲時間のお供になるような本との出会いをお手伝いできたら嬉しいですね。

住所

〒545-0022
大阪府大阪市阿倍野区播磨町2-6-16

営業時間

木・金:13:00-18:00、土:11:00-18:00

オンラインストア

ON THE BOOKS

井尻くんとは、共通の友人のイベントに出店したのがきっかけで知り合いました。ヴィンテージをテーマにしたイベントで、服、家具、珈琲、古本のお店の集まりだったと思います。今ではすっかり友達です。

 

本を選ぶ時の一番のポイントは……井尻くんを楽しませることです!お客様が気軽に手にとってもらえるようなセレクトも心がけていますね。あと、本棚の物理的な問題で、A4サイズ以下の本しか入りませんので、そこも気をつけています(笑)。特におすすめなのが、『伝染るんです。』(吉田戦車、小学館、1989年)。90年代に一世を風靡した漫画ですが、30年経っても全然色あせなくて面白いです!珈琲を飲みながらリラックスした時間を過ごすのにぴったりだと思います。

住所

〒550-0006
大阪府大阪市西区江之子島2-1-34大阪府立江之子島文化芸術創造センターB1

営業時間

11:00~20:00

定休日

月曜日
※不定休もありますので、Webサイトのカレンダーをご確認下さい。

Webサイト / オンラインストア

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写真・編集

岡安 いつ美
岡安 いつ美

昭和最後の大晦日生まれのAB型。大学卒業後に茨城から上洛、京都在住。フォトグラファーをメインに、ライター、編集等アンテナではいろんなことをしています。いつかオースティンに住みたい。

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