現代社会に響く、坂口の歌 - 坂口恭平『永遠に頭上に』

現代社会に響く、坂口の歌 - 坂口恭平『永遠に頭上に』

現代社会に響く、坂口の歌 - 坂口恭平『永遠に頭上に』

特集『Choose Convenience Yourself』の企画「#ハンドルを握り直して」では、「批評」をテーマに主体的に物事を選ぶ姿勢を探っていく。アーティストは作品に何を込めているのか? そして、ライターはそれをどう受け取るのか? 批評とは「あなたは世の中をどのような視点で見ているか」のあらわれだ。今回は、坂口恭平が2020年に出したアルバム『永遠に頭上に』から、コロナ禍の今、彼が何を伝えようとしているのか読み解こうと考える。


坂口恭平は、自分の周りの出来事や情景を切り取る。彼の歌を聴くと、木々の緑や空の青さなど、都会では実感できない、彼の生活する環境が感じられる。なぜ彼は自分の身の周りのことを歌うのか。それはコロナ禍を生きる私たちに忘れ去られた風景を伝えて、生きることの豊かさを説いているからだ。

 

本作は寺尾紗穂(Vo / Pf)、厚海義朗(Ba)、菅沼雄太(Dr)を迎えた『アポロン』(2018年)と同じ布陣をとり、録音期間1日で作られた。だが短期間でメンバーに対して制約なく自由に制作されたこともあり、バンドサウンドは自然体で、リラックスした音作り。それが時にやんちゃで、時に情緒的に歌う坂口の歌声とマッチし、リスナーの頭の中にある在りし日の風景を描く。

 

例えば1曲目の“飛行場”は別れの歌なのだが、決して音は重くならず、暖かく包むような歌声で去りゆく友、または恋人を見送る情景を描き出す。モダンジャズのアダルトなムードを子どものお遊戯に変換したかのような2曲目の“松ばやし”は「棒」で韻を踏む言葉遊びも面白いが、情景描写が実に見事だ。松ばやしと潮騒、錆びたトタンと青空、真っ白な鳥と真っ白な花と青空、と色あざやかなコントラストを次々と並べ、リスナーの想像力をかき立てていく。

『Practice for a Revolution』(2012)に収録され、今回は初のバンドテイクとしてカバーされたTHE BLUE HEARTSの“TRAIN-TRAIN”。ここでは、フォークテイストで原曲のメロディを一切使わず、更に歌詞も1番、2番のAメロ、Bメロを全て歌い最後にサビを歌うように再構成され、全く新しい“TRAIN-TRAIN”を聴かせてくれている。また、原曲にはない「お前生きてるんだろ」という歌詞。それは『いのっちの電話』※を2012年から行っている坂口だからこそ、「この曲を聴いているあなただけには生きていて欲しい」という想いがこもったこの言葉を言わせているような気がする。

 

本作のラストを飾るのは“海底の修羅”。石牟礼道子の詩『海底の修羅』に坂口がメロディーをつけたものだが、メロディーと詞がマッチしており、本当に別々に作られたものかと思わせる楽曲になっている。それは石牟礼の情景描写がコントラストを言葉で色彩豊かに表現する手法であり、坂口の情景描写に重なる部分があるからではないだろうか。それに音楽家としての坂口の姿勢は石牟礼道子にも通じるものがあると私は考える。

石牟礼は自らの地元、熊本で起きた水俣病の現実を書にしたため『苦海浄土』という本を出版した。この本では水俣病で苦しむ人々に寄り添い取材し、声なき声をつづることで、被害の実態を伝えた。しかしその内容は決して公害への怒りに満ちたものではなく、水俣病で苦しむ患者がもう一度、観たかった「美しきノスタルジア」が納められていた。なぜ怒りではなく美しき世界を描くのか。それは「日常生活では当たり前のことでも、水俣病で日常が崩された瞬間に当たり前こそが何よりの宝物であった」ということを博愛のまなざしで描きたかったのではないか。

 

坂口がコロナ禍の現代に、情景描写の優れた歌をうたうのも同じことである。誰がかかるかわからない病気に疑心暗鬼になり、SNSを開けば、現状への憤りが噴出。当たり前の日常が非日常となっている今だからこそ、人々が忘れかけていた日常の風景の大切さを石牟礼のように博愛のまなざしで描いているのではないか。忘れ去られた色彩と生きる願いを歌う本作は、私たちが今持っている憤りや失意を浄化する。

永遠に頭上に

 

アーティスト名:坂口恭平
フォーマット:CD / デジタル
発売日:2020年9月9日
レーベル: SPACE SHOWER MUSIC

 

収録曲

01.飛行場
02.松ばやし
03.霧
04.露草
05.TRAIN-TRAIN
06.海底の修羅

RECENT POSTS

EDITOR

阿部 仁知
阿部 仁知

はろーべいべーあべです。フェスとクラブカルチャーとウイスキーで日々をやり過ごしてます。アンテナの他にfujirockers.orgでも活動中。興味本位でふらふらしてるんでどっかで乾杯しましょ。hitoshiabe329@gmail.com

Other Posts