企画「#ハンドルを握り直して」イントロダクション

企画「#ハンドルを握り直して」イントロダクション

企画「#ハンドルを握り直して」イントロダクション

特集『Choose Convenience Yourself』の企画「#ハンドルを握り直して」では、便利さとうまく付き合う指針のひとつとして「批評」を考えることとしたい。「批評」と聞くととっつきにくい印象があるかもしれないが、本記事はそのイントロダクションとして、あなたの日常とも決して遠くないことをイメージしていただければと思う。


さて、どうしたものか。僕らは正解しか選べない。

 

近年ではサブスクリプションやSNSの隆盛もトレンドを左右する大きな要素となった。Spotifyではプレイリストやアルバムを聴き終わった後でも、終わりなき“僕の好み”を正確過ぎて怖いほどにキュレートしてくれるし、Twitterを眺めていても「最高!」「素晴らしい!」と新譜の感想がひっきりなしに飛び込んでくる。その新譜を聴いて僕も「最高!」と思いツイートをする。なるほど、何も悪くない。多分これが正解だ。

 

しかし、この「最高!」は僕の中から生まれたものなのか? 誰かからそう思わされているのではないか? そんな風に自問自答してしまうのは僕だけだろうか? あるいは“あの”Radiohead(レディオヘッド)の新作“だから”好意的に評価したいわけでは絶対にないのに、無意識に彼らの威光に引っ張られてしまう、そんなこともある。考え過ぎと言われればそうかもしれないが、疑心暗鬼の心模様はどうにも晴れない。

http://thesignmagazine.com

筆者がよく閲覧するWebメディアのひとつ『The Sign Magazine』。

他にも様々な音楽批評の媒体がある。

そこにヒントを与えてくれるのが批評だ。批評と聞くと、音楽だと『ミュージック・マガジン』や『The Sign Magazine』、あるいは『ROCKIN’ON』といった媒体に掲載されている文章をイメージするかもしれないが、決してそんな限定的なものではないはず。例えばある作品を聴いて「この表現って、もしかしてこういうことなんじゃ?」と思った時の、あのゾクっとする感覚。それが批評のスタートだ。

 

その直感を批評にするには丁寧に何度も何度も聴いたり、作品にまつわる情報をリサーチしたりすることで直感の根拠を探り、他者が納得できるように示す必要はあるが、あくまではじまりは僕らの主観。作品と相対して、感じたことをありのままに紡ぎ出す。「最高!」の嵐に抗うのはとても勇気と覚悟が必要なことだし逆もまた然りだが、それでも伝えたいあなたにしかない思い。それが批評なのだ。そしてそれは、僕らの疑心暗鬼を晴らしてくれる唯一にして絶対の処方箋だ。

手前味噌だが筆者がゾクっとした一例。これでは批評とは呼べないだろうが、はじまりはこういった無根拠だがあなたを捉えて離さない直感からなのだ。

さらにもう少し話を広げると、全ての表現活動は批評的な行動だ、と僕は思っている。かなり大袈裟には聞こえるだろうが、例えばアーティストが世界や自分の身の回りで起こっていることと向き合い、自らと重ね合わせ、その結晶としてできたものが音楽作品なのだとしたら、これほど批評的な姿勢もないだろう。批評とは決して正解探しなどではなく「あなたは世の中をどのような視点で見ているか」のあらわれであり、そう考えると作品を媒介とした他者への自己紹介のようなものともいえるのかもしれない。

 

さて、前置きが長くなったが、企画「#ハンドルを握り直して」では、あまりに多くの情報が散乱する世の中でも自らのハンドルを失わないための姿勢として、「批評」を考えることとしたい。試行錯誤を繰り返しながらまさに批評に挑まんとする『痙攣』編集長の李氏へのインタビューを軸に据え、4枚の音楽作品を通してアーティストたちの批評的姿勢をアンテナライター2人がまた批評することで、この時代を主体的に生きるヒントを探ろうと思う。この企画があなたにとってなんらかの気づきとなり、自らのハンドルを握り直す一助となれば幸いだ。

「#ハンドルを握り直して」目次

批評誌『痙攣』が伝える「ないものを探す」という批評の在り方

現代社会に響く、坂口の歌 - 坂口恭平『永遠に頭上に』

他者の立場を想像し、お互いをエンパシーするためのマスターピース - Moment Joon『Passport & Garcon』

おおらかな時間の流れを紡ぐ歌と演奏 – adrianne lenker 『songs and instrumentals』

他者の物語を通して、自らの物語へ – Marika Hackman 『Covers』

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岡安 いつ美
岡安 いつ美

昭和最後の大晦日生まれのAB型。大学卒業後に茨城から上洛、京都在住。フォトグラファーをメインに、ライター、編集等アンテナではいろんなことをしています。いつかオースティンに住みたい。

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マーガレット 安井
マーガレット 安井

大阪在住のしがない音楽好き。普段は介護施設で働きながら、鬱々とした毎日を過ごす。好きなジャンルはシティポップと女性シンガー・ソングライターと女性アイドル。

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