7月2日
今日は僕もモロッコ流にのんびり起きた。昨晩のうちに屋上に干していた衣類は、Gパンのような厚手のものまで起きた頃にはカラカラに乾いていた。さすが砂漠の国。モロッコに着いてからまだ1度も雲を見ていない。そりゃあ暑いに決まっている。
ゆっくりと時間をかけて支度をすませ朝食を食べに行く。仕事をしていた時のことを考えると信じられない生活だ。ラマダーンでご飯が食べられるようなお店は、近所ではいっさい開いていないのでフナ広場まで行く。そこから昨日まではあまり足を踏み入れなかったマラケシュの原宿、”アグノウ通り”へ行くと、カフェを発見。店に入りマルガリータとコーラを注文する。
このマルガリータはかなり美味しかった。特筆すべき点はそんなにない普通のピザだが、熱々焼きたてで味付けもしっかりしており、ボリュームもある。油断するとすぐにたかってくるハエを払いのけながら、のんびりと食事する。問題は食後で、ピザとコーラで55DHのはずが何故か請求されたのは85DH。書いてあるのとちゃうやんけ!と乏しい英語で訴えるも85DHの一点張り。結局30DHボッタクられるはめとなった。二度とのれんはくぐるまい。
ぶらぶらしているけど旅の当初の目的、砂漠を忘れたわけではない。サハラ砂漠はモロッコの国境を東から南にかけて広がっており、マラケシュからは少し離れている。そのため砂漠へ行くにはツアーへ申し込まなければならない。有名なものがアルジェリア国境のメルズーガという村から行く砂丘で、モロッコで見られる砂丘で1番大きなものらしい。ツアーの日程にもよるが相場は二泊三日のタイプで150-250DH、僕は180DHで申し込んだ。出発は明日で二泊三日のスタンダードな日程のツアーだ。1人だと割高になるようなので、複数人で申し込んだ方がよいとのこと。
メルズーガへの移動も自力か、パックか選べるが自力で行くことにした。そうすれば終わってからマラケシュに戻る必要はなく、そのまま別の街へ行くこともできる。片道220DH、12時間の旅らしいが、乗り換えがない分楽な気がする。一人旅で何が不安って、知らない町での乗り換えの時が一番不安になる。早速マラケシュ駅まで高速バスのチケットを買いに行くために、メディナの出入り口付近にある市バス乗り場へ向かう。
メディナのバス停はかなり多くのバスが通っていて、全部で16。間違えないように時刻表片手にルートと乗り込むバスを確認していく。確認しているとサングラスをかけたおっさんに話しかけられた。「Can I help you?」。ちょうど確認が取れたところだったので、「ありがとう、でも大丈夫」と答えながらバスを待つ。タイミングよく2分後にバスが来たので乗り込もうとするとおっさんが追いかけてきた。「どこへ行くんだ?」、「マラケシュ駅だよ、もうわかったから大丈夫ありがとう」と答えると、「それは違うぞ、あっちのno.1が正しいバスだ」と言ってくる。不安になり確認するも何度見てもno.1のバスはマラケシュ駅へ行かない。「これであってるよ、ありがとう乗るね」、と言ったあとにおっさんが、とやかく言っているがどう聞いても客引きのそれでした。商魂がたくましすぎる。
バスは一律4DHで、中は新しいのかとても綺麗だった。ただクーラーはなく、窓が申し訳ない程度に開いているので暑い。あとひとつ気がついたのだけど、ムスリムの女性は絶対に僕の横には座らない。偶然かもしれないが、他に席が空いていなくても立っていた。電車でもバスでも。
気が付くと一駅乗り過ごしてしまった。降りて、来た道を歩いて戻る。一本道なので戻るのは容易だった。
バスのチケットは特に苦労することなくあっさり買えた。出発は明日の08:30、随分と早いから乗り遅れないようにしなくては。新市街まで出てきたので折角なら少し寄り道をしたい。海外へ来た際には必ずよることにしているスーパーへ行くことにした。一番その場所の人の生活を感じられて好きなのだ。
マラケシュでスーパーと言えばマルジャンらしい。フランスの会社でチェーン店らしいが、モロッコでもかなりハバをきかせているとのこと。日本で言うイオングループみたいなもので、プライベートブランドも充実しているようだ。とりあえず流しのタクシーを捕まえたら運よくメーターのタクシーだった。マルジャンへ、と言うと場所もすぐに伝わる。やるやんけマルジャン。
20DHくらいの距離 (何キロなんだろう……) をひた走りマルジャンへ到着。外観的には他のマンションや建物となにも変わらない土色だ。唯一と言えば商品のノボリがかかっていることくらいだろうか。中にはなにがあるのかとワクワクしながらマルジャンの中へ。結論としては一階建ての横広のイオン。食料品から電化製品、携帯電話から衣料品までなんでも揃っていた。
これが1番驚いたのだけど、普通に女性の洗髪剤が売っていた。あとで聞いた話によれば、ヒジャブをかぶっていてわからないだけでみんな結構染めているらしい。
食料品売り場は正直メディナで見ていた食材と大きくは変わらなかった。ただ鮮度が段違いでツヤツヤしている。見たことない野菜もたくさんあったし、知っている野菜もサイズが全然違ったりして面白い。肉はもちろんチキンかマトンしか置いていない。お米などの雑穀の量り売りコーナーがあったんだけど、1番驚いたのは鳥が侵入してそれを食べていたこと。店員も追い払う素振りもなさそうだし、それでいいみたい。
マルジャンには白人がかなり多かった。住んでいるのかバカンスかサッパリわからないが、新市街は少し高級な場所なようだ。もちろん地元民の多くも行くが、メディナに比べると随分と落ち着いていて静かではある。
1時間に一本と聞いていた帰りのバスが運よくすぐに来たので、マルジャンからメディナへ帰ることに。メディアなは歩いてぶらぶらしている一軒一軒扉が違い、それが案外凝っていて見ているだけども結構面白い。お店は基本的に六畳一間くらいの窓もなにもないスペースで、みんなそこで物を売ったり作業 (鉄工、木工、修理業、床屋は確認) をしている。民家はリアドと言って扉は人一人分くらいの狭い入口しかないのに、中は中庭があり明るく開放的でかなり広かったりする。
一度宿に戻り、ひと休憩したあと明日の準備のために再度街へ。通常なら高速バスの移動中に食事休憩があるのだが、ラマダーンなのでそれがないらしい。そのために明日のお昼用のパンや水を買いに行く。ついでに小腹がすいてきたのでサンドイッチとその場で絞るタイプのオレンジジュースを買う。
これは正直どちらも美味しかった。オレンジジュースは腹を壊しやすいと聞いていたので避けていたのだけど、珍しく冷えていてぐびぐびと飲んでしまった。モロッコでは冷たい飲み物に出会える可能性が低い。もちろん自動販売機はない。カフェなんかで冷やしていても少しぬるい。冷たい飲み物は貴重なのだ。またサンドイッチの中身はトマトと唐辛子とイワシのフライでかなり辛い。しかしこれにレモンの酸味がきいていてしつこくなく、あっさりと食べられる。ふたつとも食べてよかったと思った。ただサンドイッチ屋のおばさんに写真を撮っていいかと聞いたところ1DH請求された。ちゃっかりしている。
夕刻、フトール前の時間はモロッコ人はかなりカリカリしている。道端でケンカも起きてるし、歩いているだけでその辺のやつらがやたら絡んでくる。それは客引きではなく、暴言を吐いてきたり、殴る振りをしたり、わざとぶつかろうとしてくる。普段はそんなことはないらしいが、夏のラマダーンはやはり相当きついらしい。昼間とはだいぶ違うし、夜ともまた少し違う雰囲気。あまり出歩くな、の意味が少しわかった気がした。
明日宿を離れるため荷物の整理をする。その時にふともう3日も米を口にしていないことに気が付いた。砂漠へ行くとまた長く米を食うチャンスがなくなると思い、宿でカレーを注文。お肉はやはりチキン、インゲンとピーマンが入っていて彩りが美しい。染みる……
明日も早いのでそろそろ寝ようかと思う。マラケシュの喧騒に慣れ始めたところだったのに離れるのが少し寂しい気もするが仕方ない。明日の夜にはとうとう砂漠へ向かう。楽しみだ。
続く