3月初めの週の土日に、1泊2日で鳥取に行ってきました。きっかけは、友人の出演するコンテンポラリーダンスの公演があるからだったんですが、京都から鳥取までは車で3時間半ほどなので、ドライブがてらどうせなら観光しちゃおう!ということで旅の運びとなりまして。
皆さん鳥取といえばどんなイメージでしょうか。鳥取砂丘、植田正治写真記念館、水木しげるロードが有名なのかな。
じつは鳥取には3年前の大晦日にゲストハウス「たみ」という館内撮影厳禁のクセのある(褒めている)宿に1泊したことがあるんですが。
その時はみんなでカニ鍋を囲んだり、近所にある浴槽が2メートル四方くらいの小さな温泉に入ったり、元旦にオーナーの三宅さんが年賀状を持ってご近所に挨拶回りに行くのについて行ったりだとか…。
たみの徒歩数分圏内をぷらぷらするだけでどこにも観光に行かなかったけれど、そこで過ごした1日と数時間の暮らしがとても気に入って、鳥取という地に愛着が湧きました。観光地をまんべんなく訪れるよりも、一歩踏み込んでそこで暮らすように過ごす方が心と身体に刻まれるし良い旅だったなと思えます。
郷に入っては郷に従え、その地を知るにはそこに住まう人々の生活を見るべし。とでも言いましょうか、せっかく知らない土地に行くならガイドブックに載っているスポットを目指すより、地元の人が好んで訪れる場所を覗いてみませんか。そここそが真の観光スポットなのではないかと思うのです。
そこで今回のコラムではおせっかいながら、現地に住む友人や知り合いに教えてもらい、実際に訪れた中から地元民に愛されるローカルスポットを厳選していくつかご紹介します。友達におすすめを聞かれたら教えようと思うところばかりです。
鳥取といえば砂丘でしょと思っているそこのあなた。ぜひ素顔の鳥取を覗いてみてください。
まずは食べ物編:採れたての松葉ガニと新鮮ぷりっぷりのお寿司
鳥取港で食べる松葉ガニの贅沢御前
鳥取旅一発目のお昼ごはんに行った賀露港にある「お食事処 若林」は、お店の目の前が漁港で、入り口の大きな水槽には採れたて新鮮の松葉ガニがぎっしり。京都には海が無いので邦画のロケ地っぽい雰囲気にドキドキしつつ、案内された2階のお座敷は昔懐かしいノスタルジーな雰囲気。
隣の席の人が食べているカニ鍋も美味しそうだったけど、ここでは1日10食ずつ限定の¥1,080ランチメニューの中から「季節のお椀御前」をチョイス。
左上から時計回りに、カレイの煮付け、お刺身、煮物、カニみそ、真ん中の小さい鉢が酢の物、これに焼きガニとカニの身入りのお味噌汁、ごはんです。さっきからカニって何回書いたかわからないくらいカニ祭り。お刺身もぷりぷりで、噛み応えがありました。
最近NETFLIXで見たデジタルリマスター版のアニメ「美味しんぼ」でも、山岡さんが新鮮な魚には海の栄養がぎっしり詰まってるんだって言ってて、普段海鮮居酒屋とかで食べる柔らかいお刺身とは別物でした。あと、バチあたりかもしれないけど北海道出身のくせに魚介の磯臭さが苦手で、つい最近までカニみそって食べられなくて。でも、松葉ガニのカニみそはイケました!白ご飯に載せると美味しいし、もし出来るなら甲羅ごと火で炙って日本酒をたらして少し煮立たせてからずずっと飲んでみてください、最高なんで。
味覚が大人になったんだなあとしみじみ、次はカニ鍋コースを食べたいなあ。
お食事処 若林
鳥取県鳥取市賀露町北1丁目8番12号
11:00~14:00・17:00~21:00
(日・祭日は11:00~21:00)
(0857)31-1178
知る人ぞ知る穴場。地元民に愛される回らない寿司屋
米子に行くならぜひ行ってみてほしい極上のお寿司が味わえるお店「郷の鮨 たむら」がこちら。私はたみのオーナー三宅さんに教えてもらいました。
ちょっと営業しているかわからない出で立ちだけれど、カウンター7席のこじんまりとした店内はランチ時ということもあって満席でした。教えてもらわなければ知らなかったけれど、どうやら地元の人に愛されている名店らしく、他のところではこの値段でこんなに大きくて新鮮なネタは食べられない!と太鼓判を押されているそう。
正直、回らないお寿司屋さんってハードルが高いけど、なんとなんとランチサービスメニューの新鮮にぎり8貫(お吸い物付)が¥1,000で食べられます。物腰の柔らかい大将が丁寧に1貫ずつ握ってカウンター上の寿司下駄に載せてくれるのですが。
う、美味い〜〜!!!ぷりっぷりなのは言わずもがなここのネタは分厚くて噛み切れないくらいで、まるごと頬張って口の中から無くなるまでしばらく無言に。お吸い物も、鯛の頭がまるっと入っていて、こんなの1人に1つずつ使って良いの?と少し困惑したくらい贅沢でした。単品のメニューもあるので、セット以外にも食べたいネタがあれば握ってくれますよ。こういうときに季節ものの魚を頼めるような大人な食べ方がしたいなあ。
郷の鮨 たむら
鳥取県西伯郡伯耆町丸山1800-26 ※移転後
12:00~
水曜日休み
0859-39-8585
ほっぺタウンのほっぺ焼き
小腹が空いたら鳥取駅前の大丸の地下食品街、通称「ほっぺタウン」に行ってみてください。そこには私の敬愛する地元グルメ「ほっぺ焼き」が!関東では今川焼き、関西では回転焼きもしくは御座候、北海道ではおやきと呼ばれているいわゆる粉ものおやつです。
私はたい焼きとおやき(クリーム一択!)が大好きで、北海道の「高橋まんじゅうや」のチーズおやきが人生で最上の粉ものおやつだと思っていますが、ほっぺ焼きはそこに匹敵します。今や私の二台巨頭です。
3年前に来た時に鳥取の友達に教えてもらって、食べたときの衝撃ときたら。ほっぺ焼きは外の皮はうすく、中の具がたっっぷりなんです。中でも一番のおすすめは豆乳クリーム!さっぱりとろとろの豆乳クリームにあんこの甘みがアクセントになっていて、とろけるような幸せな食べ物なのです。甘過ぎないから重くなくて、1つぺろりといけちゃいます。空腹時には3個は余裕な気がします。ぜひ食べてみてください。
ほっぺ焼
鳥取県鳥取市今町2-151 鳥取大丸 B1F
10:00~19:00
日曜営業
0857-25-2158
文化に触れる。民藝美術館へ
ぽってりした手仕事ならではの丸い大胆なフォルムや、繊細な細工が美しい民藝工芸品。京都には五条の方に「河井寛次郎記念館」がありますが、建築家の友人に薦められて行ってからというもの華美じゃない生活に寄り添う家具や器に胸を打たれまして。ディズニー映画ではシャンデリアや洋服ダンスが歌って踊りますが、河井寛次郎の自邸で長く愛された椅子や食器棚たちにも、夜はこっそりおしゃべりしているんじゃないかと思うような生気を感じました。
そんな河井寛次郎や柳宗悦の民藝活動に共感して、自身でも民藝品を生み出しプロデュースも行った吉田璋也の創始した美術館が、ここ鳥取駅前にある「民藝美術館」です。町医者であり民藝運動家であった吉田璋也が美と生活とを結ぶ目的で美術館、工芸店、割烹の3棟が並ぶ民藝スポットを創り、当時としては画期的な「見て・知って・体験」するミュージアムです。3年前もここの前は通っていたのですが、その時は”民藝”にピンと来ておらずスルーしていて。改めて来られて良かった。
昭和24年創設の美術館は管理が隅々まで行き届いていて旧さを感じさせずとてもきれいで、この場所はとても愛されているのだなあと感じました。そして昔の建物って隙間風が入ってきて割りとどこも寒いのですが、暖房設備もしっかりしていてあたたかかった。ここ割りと重要で、冷え性を気にせず展示に集中できて助かりました。受付にいたお兄さんも柔らかい雰囲気で、美しいものに携わる人は心も美しいのかなと。見習いたいです。個人的には2階の階段際にあったイスと、1階の作業机と電気スタンドが好きでした。
隣の「鳥取たくみ工芸店」では自宅用のお鍋の取り皿と肉じゃが用の銘々皿を購入しちゃいました。器は出会いって言いますからね。
鳥取民藝美術館・鳥取たくみ工芸店
鳥取県鳥取市栄町651
10:00~17:00
休館日:水曜日(祝日の場合は翌日休館)、年末年始
展示替え期間中臨時休館あり
大人500円、大学生300円(要学生証)
70歳以上の方、高校生以下の方 無料(要証明書)
年間パスポート(1年間有効800円・記名式)
0857-26-2367(たくみ工芸店共通)
温泉万歳!憩いの街湯「ゆかむり温泉」
日も暮れて砂丘から20分ほど街頭のあまりない道を走った頃「歓迎 岩井温泉」と書かれたアーケードが見えてきます。頼りないライトに照らされてどこか異界への入り口のようなアーケードを抜けるとそこは不思議な街ではなく、れっきとした温泉街。私のイメージする温泉街って完全に観光地化されていて、そこかしこにお土産屋さんと浴衣を着たカップルが歩いているのが普通だと思っていたんですが、1300年の歴史を誇る山陰最古の湯・岩井温泉は湯治場として親しまれていたということもあって、一切浮足立っていない感じがとても渋くて好みでした。源泉があって、それを堪能していただくために宿がある、それこそが温泉街じゃないか。
その中でも大浴場・源泉長寿の湯を有する湯治場情緒溢れる「岩井屋」が今回の目的。到着したのは18:00頃で、受付の人に温泉の利用をしたい旨を伝えると、なんと温泉のみの利用は15:00までなんだとか!サイトには19:00までって書いてたはずなのにな〜。周りの温泉旅館もどこもそんな感じだそうで、唯一入れるのが地元の人が利用する温泉施設「ゆかむり温泉」のみ。
大人¥310、中にはあつめの湯とぬるめの湯の2つの湯船があって、洗い場は6台ほど。源泉100%のかけ流しで、泉質は申し分なし。常連のおばあちゃん達の小噺を聞きながらあつめとぬるめに交互に浸かって身体の芯からポッカポカになりました。コスパ最高。そしてお風呂上がりにはコーヒー牛乳!鳥取といえば白バラコーヒーですね。あっさりと美味しくて一気に飲み干しました。ぷはー!ごちそうさまでした。
ゆかむり温泉
鳥取県岩美郡岩美町岩井521番地
06:00 ~ 22:00 【年中無休】
0857-73-1670
中学生以上:310円
小学6年生まで:160円
鳥取市に来たらぜひここに泊まってほしい。
今回の宿に選んだのは、ゲストハウス「たみ」の姉妹店として鳥取駅前に昨年オープンした「Y Pub&Hostel」です。1階は誰でも集えるパブで、2階がホステルになっています。パブには夜22:00くらいでも地元の方がふらっと飲みに来て、ホステルに泊まっている人とも交流が生まれているようで、人が集う心地よい空間が出来上がっていました。
荷物を置いてパブに飲みに行ってみたら、フードも充実していて、アテに頼んだ前菜三種盛りも美味しかった〜。サッポロ黒ラベルを置いているところもお目が高いです。
完成したばかりでキレイなのはもちろんのこと、たみと同じくデザイン会社である「うかぶLLC」が運営しているYでは、旅行者の事が考えられたいろんなアイデアが反映されています。
たとえばこんな嬉しい冊子。
鳥取、倉吉、松崎、米子などのオススメのお店やお土産情報が手書きで丁寧に描かれています。こういう気配りというか、随所に作った人のセンスや遊び心があって、チェーンのホテルでは味わえないゲストハウスならではの距離感が好きです。おしゃれだけど洗練されすぎていなくて、近寄りがたい美人じゃなくて商店街のみんなに愛される街一番の美人って感じ。いつでもひょいっと帰って来たくなる、そんな場所です。
以上、私がおすすめする鳥取の愛されスポットでした。いつも旅行に行くときは事前にガイドブックを見て気になった場所をGoogle Mapに登録するんですが、帰って来たときの方が☆マークが増えていると、たくさん出会いがあったなとしみじみ勲章のように眺めたりします。今回の旅でも1泊2日では足りないくらいたくさんおすすめを教えてもらって、その中でも「郷の鮨 たむら」と「ゆかむり温泉」が一番ぐっときました。飾らなく、そこに在るだけで地元の人に愛されていて、訪れた私も鳥取県民の仲間に入れてもらえたような気持ちでした。
京都に友達が遊びに来る時によく「京都らしい美味しいお店を教えて」と言われるんですが、じつは暮らしていると京都らしさってわからなくなってくるんですよね。一応、町家を改装していたり京野菜を使っているお店も紹介しますが、それよりも普段私が行くお気に入りの喫茶店やコーヒーショップ、中華料理やイタリアンなど「らしくない」お店を紹介します。そうやって私も地元に愛されているお店を紹介しながら、より京都を身近に感じて良い旅だったなと思ってもらえるように自称親善大使を務めて行こうと思います。