ラボの経験が写真に活きている。 写真家〈mogu camera〉小倉優司がフィルムカメラで撮り続ける理由

ラボの経験が写真に活きている。 写真家〈mogu camera〉小倉優司がフィルムカメラで撮り続ける理由

ラボの経験が写真に活きている。 写真家〈mogu camera〉小倉優司がフィルムカメラで撮り続ける理由

デジタル化が進み、写真を取り巻く状況が大きく変わったのが2000年代に入った頃。高性能になったカメラのおかげで、私たちはより手軽に、より鮮明に目の前の情報を写真で表現できるようになったのだ。けれど近頃、若い世代を中心にフィルムカメラがリバイバルし、フィルムの良さが再評価されている。人の目では捉えきれない光の世界を私たちに見せてくれるフィルム写真。20年以上のラボの経験で得た光を見る感覚を活かし、「写真の目」で世界を撮り続ける写真家〈mogu camera〉の小倉優司さんに、フィルムカメラで撮る理由を伺った。


大学の写真部ではじめてフィルム一眼レフカメラを手にし、写真にのめり込んだという小倉さん。大学卒業後、ラボ(現像所)に就職しフィルム写真の現像を8年学んだあと、大阪・中之島の南縁を流れる土佐堀川沿いのビルに〈mogu camera〉をオープン。2011年より中判フィルムのHASSELBLAD(ハッセルブラッド)でポートレート撮影も始めた。スクエア型にプリントした写真をウォールナットのフレームで額装するこだわりのポートレートは、インテリアの一部として部屋に溶け込む仕上がりがお客さんに人気だ。

 

また、2014年からフィルム一眼レフカメラを使った写真教室「MOGU PHOTO SCHOOL」をスタートし、ラボの知識がある小倉さんだから伝えられる、光を軸にした写真の仕組みや撮り方を教えている。そしてこの秋に、お店をプライベートギャラリーにすることを計画中。去年、コロナ禍で人と会えない時間を過ごしたことで、写真は外に出たり人と出会うきっかけなっていたことに改めて気づき「僕の写真を見に来ることが、外に出る一つのきっかけになれば」と、1〜2ヶ月に一度、小倉さんの作品を大きくプリントして展示する予定だという。

シンプルな白い壁のスタジオ。午後1時にラボに伺うと、見晴らしのいい大きな窓から入った自然光が室内を柔らかく照らしていた

小倉さんは写真家として20年以上フィルムカメラで写真を撮り続けているが、その一番の理由は、答えが見つからない面白さにあるという。その場で確認できないフィルムカメラは、頭の中に仕上がりをイメージしてシャッターを切ったあと、現像に出して数時間から数日後にやっと目に見えるかたちになる。仕上がった写真が期待以上なのか、想像と違うのか。そのギャップを埋めたくて私たちはシャッターを切るのだろうし、36枚撮りのうち数枚でも期待以上の写真があるからやめられないのだと思う。

 

インタビュー中、MOGU PHOTO SCHOOLに通う生徒が現像した写真を受け取りに来ると、15分ほど取材を中断し、プリントした写真を一枚一枚、一緒に見ながらアドバイスをしていく小倉さん。生徒が帰った後で、写真教室について詳しくお話を伺った。

小倉優司

 

1978年三重生まれの写真家。大学の写真部でフィルム一眼レフカメラで写真を撮り始め、暗室で現像とプリントを経験。大学卒業後、滋賀のエスアンドエフ株式会社のラボに就職し、8年間フィルム写真を現像するラボマンとして働く。2008年、大阪・中之島に現像・プリントを行うラボ〈mogu camera〉をオープン。2011年にポートレート撮影、2014年には写真教室「MOGU PHOTO SCHOOL」もはじめる。現在も写真家として活動を続けながら、日々、ラボでフィルム写真と向き合う。

光で世界を見たら、撮りたいところだらけ

──

生徒の方に、プリントした写真を一枚一枚見ながらアドバイスしているんですね。写真教室に通われる方は、どんな方が多いですか?

小倉優司(以下:小倉)

初心者からフィルムカメラを始めようとしている人と、元々デジタルを撮っていてフィルムに興味が出た人と半々ですね。あとは、フィルムカメラを撮ってたけど、イマイチよくわかんないって人とか。教室ではさっきみたいに、プリントした写真を一枚一枚一緒に見ながら復習会をしていますよ。本当はもう少し長くやるんだけど。

──

写真教室ではどんなことを教えているんですか?

小倉

いま受講している13期生は10回の講座があって、はじめの1〜2回は座学が中心でフィルムカメラの基本的な機能を教えています。そのあと一緒に出掛けながら、写真の撮り方を実践していきます。例えば、人が写真を見る時の目の運び方を教えたりするんですけど、見てほしいものに視線がいくような構図を教えたり。常に、写真になった時の仕上がりをイメージしながら、どう撮ったらいいかを伝えています。それと、僕は「写真=光」だと思っているので、実際に目には見えないけど、どこからか反射する光を見えるように段階を踏んで教えています。

──

写真は光……。もう少し詳しく聞いてもいいですか?

小倉

フィルムカメラでもデジタルカメラでも、写真を撮るということは、レンズを通して入ってきた光の情報を見るということだから。構造としては目も同じで、光が反射して目に入ってくる情報で物を見ていますよね。だから、光と写真は常に一体というか、一緒だと思います。

──

教室では、写真を撮るために光を見る「目」を育てているのでしょうか?

小倉

光を見る感覚を養うというのかな。例えば、観光地に行ったからといっていい写真が撮れるわけじゃなくて、雑草ばっかりの公園でも、光をうまく捉えたらいい写真が撮れたりするんです。旅行に行けなくて新しい景色に出会えなくても、光として見られるようになれば、家の中とか当たり前の景色も撮るところだらけなんです。家から駅に行く道にもいい光はたくさんあるし、雨の日のしっとりした光さえもいいと思うし、電車の中でも「今日の夕日綺麗だな」とか、そういう感覚も養われていきます。写真教室ではそういう風に光で世界を見る目を身につけていってもらえたら嬉しいなって。

──

小倉さんには、いろんな光の表情が見えているんですね。思い出したのですが、初めて旅行にフィルムカメラを持って行った時、薄暗い喫茶店の店内でコーヒーカップを撮ったら、自分の目には十分明るく見えていたのに、現像してみたらほぼ真っ暗だったんです。スマホだとある程度補正されますが、フィルムカメラだとそうはいかなくて、目に見えている光とフィルムカメラが捉えられる光にこんなに差があるのかと驚きました。

小倉

その時に大事なのは「写真の目」になることですね。さっきの生徒の写真に、暗い背景に人が佇んでいる写真がありましたけど、実際の場所はもっと明るいんです。ネガフィルムは、明るく撮ることで暗く現像した時にものすごくキレイに写ります。これは僕が現像をしているからこそ教えられることで、現像した後の写真をイメージできていないと、うまく撮れない。それがフィルムの面白いところで、目で見たまま撮れるなら現像した時に面白くないし、見えているもの以上に写るのが写真だと思います。

答えが見つからないからずっと撮り続けている

──

そもそも、小倉さんが写真を始めたのはいつですか?

小倉

受験が終わった高校3年生の冬、部屋でゴロゴロしていた時に、ふと昔自分が住んでいた家にアフリカの街角を写した写真が額装されて飾ってあったのを思い出したんです。倉庫から探して改めて見ていたら、まるで本当に人が動いているように見えて。その瞬間に「写真を撮ってみたい!」という気持ちが湧き上がってきて、大学で写真部に入りました。

──

その時にはじめてフィルムカメラを買われたんですか?

小倉

カメラとか全くわからずに入ったので、先輩が一緒に買いに行ってくれました。その時に買ったNikon F3は今でもずっと愛用しています。写真部では、暗室で自分でモノクロで現像して、プリントまでしていました。朝から晩まで徹夜で暗室に籠ったりして、すごく楽しかったですね。

──

楽しそうです。大学卒業後、撮ることを仕事にしようとは考えなかったんですか?

小倉

当時、写真を撮るといえばスタジオに入るとか、結婚式のカメラマンをやるとかで、芸術大学や専門学校に通ったわけではなかったし、少し負い目のようなものも感じていたのかもしれないです。それで、他の人が身につけていない現像の知識や技術を得ようと思って。それに現像の楽しさを分かっていたのでもっと知りたいと思いましたし、撮ることは自分でもできるので。

──

その言葉の通り、現在もラボの仕事を続けながら写真を撮り続けていますよね。

小倉

写真を撮る仕事をしていると、休みの日くらいはカメラを持ちたくないと思うみたいですが、僕は逆で、ラボの仕事もしているから、時間が空いた時はずっと撮りたくなります。年々撮る量が増えていて、特に去年は時間があったのでひたすら撮り続けていたのですが、それが楽しくて楽しくて。そうするうちに、今までとは違う世界が撮れ出したんです。ホームページの『LANDESCAPE』の写真がそうなんですけど……。

──

ホームページを拝見しましたが、『LANDESCAPE』だけ他の写真と毛色が違うなと思いました。柔らかいトーンが多い中で、一つだけこっくりとしているというか。

小倉

どこにも行けなかったから、大阪とちゃんと向き合って撮ろうと思って、今までと違う光で撮ってみたんです。今まではネガらしい柔らかい光が好きだったけど、ひたすら撮っていくうちに、ちょっとこってりとした感じも撮れるようになってきて。今年は生徒にも街の撮り方を教えるようになりました。

──

光を見られるようになったら写真の幅が広がりそうですし、自分の家の周り半径10メートルくらいも全然違う見方ができそうですね。新しい世界と出会えるというか。

小倉

フィルムカメラがなかったら、スマートフォンでも撮ってみたらいいと思います。とにかく、光を写真で写そうとしてみてほしいですね。

──

まずは日常生活で光を見る意識を作ることが大切なんですね。そんな小倉さんが本格的に写真の面白さにハマった瞬間はいつだったんですか?

小倉

それは、ずっとだと思います。だから撮り続けてるし、答えが見つからないから撮っているところはありますね。まだ言葉にできないから、ずっと答えを出すために撮っている。20年以上やってもまだまだ面白いことがたくさんあるし、ゴールのないマラソンみたいなものかな。撮り続けている限り新しい光や景色に出会えるから。生徒には写真展はやらなくも大丈夫だよと言ってます。そこが写真を撮るゴールじゃないからね、と。

──

そこが目標になっちゃうから。

小倉

燃え尽き症候群になってほしくないんですよ。それより、日々の写真をどう撮っていくかということを考えていけたらいいですね。いい光で撮れる毎日が続いていく方がいいと思うから。

おしゃべりしながら一緒に写真を研究する実験室のような場所

──

先ほど、答えが見つからないから撮っているとおっしゃいましたが、小倉さんがフィルムカメラを好きな理由は何ですか?

小倉

一つは自己完結じゃない、共同作業っていう楽しさがあると思います。〈mogu camera〉では基本的に郵送はしていなくて、現像に出す時もまた取りに来る時も、会話してコミュニケーションを取るようにしていて。今はコロナで余計に出歩かなくなったから、写真を撮るためや現像に出すために街へ出て、誰かと出会って、それこそ僕としゃべることも一つの楽しみになると思います。写真教室も1か月に1回必ず外に出る目的になっていて、写真を撮るのもそうだけど、誰かと1日を過ごせることがすごく楽しいんじゃないでしょうか。

 

あとは、待つ時間。撮ってすぐ見られないから、旅行に行った時もカメラを見ている時間が少なくて、街をしっかり見られるし、出会える景色も多くなる。それで、旅行から帰ってきて現像に出す時「ちゃんと撮れたかな」ってドキドキするのが恋愛と似ているなと思います。仕上がりを待つ時間が愛を育むみたいな感じで(笑)。現像を待っている間に期待しすぎて「あれっ?こんな写真だった?」ってなるかもしれないし、それ以上に「やっぱりすごく好きな写真だった」みたいになることもあるし。フィルムは現像することでその景色に再会する楽しみがあるのも面白いですよね。

──

撮った時と現像した時とで二度楽しめる。

小倉

さっきの話に戻ると、写真の目になればなるほど、自分が実際に目で見た景色と違う景色に撮れてるから、現像がより楽しいんです。

──

その楽しさが、小倉さんがフィルムカメラで写真を撮り続ける理由の一つですか?

小倉

そうですね。それと、写真教室ではなるべくいいところを見つけて「よく撮れたね」ってめちゃくちゃ褒めるんですが、良さを共有できるのも楽しいです。

──

褒めてもらえたら頑張れますね。

小倉

そんなコミュニケーションを楽しみに現像を出しに来てくれるし、自分の写真をすごく好きでいてくれてるんだと思いますよ。

──

最後に、〈mogu camera〉を今後どういう場所にしていきたいですか?

小倉

〈mogu camera〉は、元々はフォトラボのつもりでやってたんだけど、ラボの意味が変わって、実験室みたいになってきました。

──

実験室ですか。

小倉

前は大きなカウンターがあって、僕とお客さんを分けていましたが、カウンターをなくしたことでお客さんと僕を隔てる境目がなくなったんです。今は生徒を作業場に入れたりもしますし、お店に来るみんなと一緒に写真を研究している感じがしますね。大阪のカメラマンもよく使ってくれていて、会話して、色々新しいことを実験しているところもありますし、足を運んでくれる人とのコミュニケーションを大切にしています。それと、ここはおしゃべりする場所でもあって、写真の話だけじゃなくておすすめの映画や音楽とか、ご飯の話も多くて3時間くらいいる人もいますよ。

──

私も取材前に現像に伺った時、初訪問だったのに撮影おすすめスポットとかを紙に書いて教えてくれましたよね。この場所には現像はもちろん、小倉さんに会いに何度でも来たくなるなと、今日もお話していて思いました。

光を意識した帰り道

インタビューを終えて駅へと向かう帰り道、いい光だなと思った場所で持ってきていたフィルム一眼レフカメラのファインダーを覗いてみた。「日が西に傾いて、光は後方からやんわりと差している。この絞りとシャッタースピード、この構図で撮ったら、水面に反射する光はどんな風に写真に表れるんだろう……?」と、いつもよりシャッターを押すまでにたくさんのことを考えていることに気づく。写真を撮るということは、世界への感度を研ぎ澄まし、微細な光の変化を感じ取って丁寧に掬い上げることなのだと思った。そしてフィルムカメラには、そんな風に見つけた自分だけの光の世界を、写真というかたちで肯定してくれる寛容さがあるのだ。光とフィルムが描き出す世界を探求しに、フィルムカメラを手に取ってみてはどうだろう。

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EDITOR

阿部 仁知
阿部 仁知

はろーべいべーあべです。フェスとクラブカルチャーとウイスキーで日々をやり過ごしてます。アンテナの他にfujirockers.orgでも活動中。興味本位でふらふらしてるんでどっかで乾杯しましょ。hitoshiabe329@gmail.com

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PHOTOGRAPHER

延藤 喜一

大阪在住の広告写真家。

世渡り不上手です。
染まらず、自分の好きな事だけを発表していきたいです。

…後、ラーメン二郎が好きです。はい。

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