Photolabo hibi

Photolabo hibi

Photolabo hibi

京都の文化圏・岡崎から鴨川へ抜ける二条通り沿い。人々の生活の気配を感じるエリアにPhotolabo hibiはある。京都で唯一のフィルムに特化した写真屋さんは、京都市内のユーザーからはもちろん、全国からも現像の依頼が届く人気店だ。

 

hibiの写真が人々に支持される理由の一つに「写真に特色を出さない事」がある。現像をするお店ごとに写真の仕上がりに一貫した特色があるものだが、それによって線引きをしたくないというポリシーの元、hibiではお客さんのオーダーに忠実に写真を仕上げる事を目指している。そのため店主の松井恵津子さんと夫の貴之さんは、時間をかけてオーダーを丁寧に聞き取り、お客さんと二人三脚で理想の写真を表現しようと日々の業務に打ち込んでいる。

 

5年目を迎え、常にお客さんが居心地良く通い続けられるお店作りを考えているお2人に、改めてフィルム写真の魅力と、お店を通してどのように社会と関わっていきたいかインタビューを行った。

住所

京都府左京区正往寺町462-2インペリアル岡崎108

営業時間

12:00-19:00

定休日:火曜日・水曜日・木曜日

※他不定休あり

お問い合わせ

TEL:075-751-0825

メール

info@labo-hibi.com

「ないなら作ればいい」、憧れを形にするまで

──

2人は京都芸術デザイン専門学校で空間デザインを学ばれていたんですよね。

恵津子

同じ学科だったんですけど専攻が違って、私はインテリアデザイン専攻で、彼は建築専攻でした。学校に入ったのも、インテリアが楽しそうと思っただけで、写真と接点はなかったんです。

──

写真と接点を持ったのはいつ頃だったんですか?

恵津子

卒業してからです。元々おじいちゃんが写真が好きで、幼少期から身近にあったんですが、学生の頃は写真をメインに撮っていたわけではなくて。トイカメラブームがあって、その時初めてフィルムカメラのおもしろさを知りました。プラスチック製のHOLGAというカメラを持っていて、女子カメラブームに火が着いていた時期でコンテンツもいっぱいあったんですよ。

──

トイカメラってフィルムが規格外で、お店に出すのも苦労した記憶があります。どういったところにおもしろさを感じたんでしょうか?

恵津子

手のかかる事が純粋にワクワクして楽しかったですね。その頃はデジカメ・ガラケーが主流で、今ほど日常的に写真を撮る感じじゃなかった。だからこそ、お店にわざわざ出しに行って、フィルムが規格外で受け付けてもらえない事があっても、上がってきた写真を見て「あーいいな」って思ったりして。ものめずらしさで撮っていましたね。

──

トイカメラにハマって、これを仕事にしようとすぐに思い立ちましたか?

恵津子

『カメラ日和』という雑誌でフィルムカメラを扱うお店一覧が掲載されていて、まずそこでこういうお店があるんだって知ったんですけど、9割が東京のお店だったんです。関西には兵庫と大阪の2軒で。行ってみたいけど近くにないし、遊びに行くついでに出せたら良いなと思っていたので、「ないなら作ればいいじゃん」というなぜか飛躍した思考になりまして。

──

すごい行動力ですね。「お店を作りたい」と思ってから実現するために準備はされたんでしょうか。

恵津子

まずは、現像の知識を学ばなければいけないと思ったんですが、近くにフィルムのお店がなかったので、デジカメプリントのチェーン店に入りました。専門学校を卒業してすぐ、21歳の時ですね。そこで2年半勤めて、その後にヨドバシカメラ梅田店の中にあるラボでも2年半勤めました。

──

知識を学ぶためとはいえ、チェーン店と目指しているお店のイメージにはギャップはありませんでしたか?

恵津子

憧れのお店で働けないというジレンマはありましたが、写真を趣味として楽しむ余地は残したいと思ったので、知識を積むための仕事はチェーン店で良いかなと割り切っていましたね。スタッフとして勤める事でお店の色に染まってしまうんじゃないかという不安もありましたし、ユーザーの立場でお店を利用する楽しさを忘れたくなかったので。

──

チェーン店と量販店での仕事期間を終えて、2人でお店を立ち上げようと思った時は、場所はどのように決められたのでしょうか。

恵津子

学生の時から(貴之さんと)付き合っていて、結婚して住むなら彼の地元の京都かなと勝手に思っていました。でも正直、お店を作る時は貴之さんに関わってもらうつもりはなかったんです。お互いにやりたい事があったので、別々に働く事を考えていました。2人でやるようになったのはオープンして半年後くらいですね。

貴之

震災があった翌年に復興支援として建築活動をしていたんですけど、京都に帰ってくるタイミングでお店を立ち上げて、僕はhibiの空間づくりなどを手伝ったりしました。

──

2人でやるようになったのには、何かきっかけがあったんですか?

恵津子

えっとですね、フタを開けてみたら思っていた以上に甘くなかったんです(笑)

貴之

ヤバい!ってなって(笑)

──

オープン当初に想像していたお店を回すイメージと、違ったという事でしょうか。

恵津子

最初は1人でお店をしながらお客さんと話して、業務もしてというのが私の描いていた理想でした。想像以上にお客さんが多く来てくれたというのもありますし、実務と事務作業とお客さんとのコミュニケーションを並行してできなくて、すぐにキャパオーバーしてしまったんです。写真屋さんをやるために5年間写真の勉強をしてきましたが、その業界でしか生きてきていなかったので、Photolabo hibiというお店の形を作っていけなかった。

貴之

お店を始めるのに、数字を詰めていなかったんですよ。それと、「お店を作って何がしたいか」っていうのが欠けていた。それを紐解いていくと1人ではとてもじゃないけど実現できない事がわかって。これはなんとかしないとと、僕のやりたい事はお休みして、とりあえずこっちに合流しました。

──

迷いはなかったですか?

貴之

迷いは……ありましたね(笑)。葛藤がすごかった。でも、基本僕が元々やろうとしていた事は抽象的な事だったのですが、実現する道具が写真か建築かなだけなのかなと。やっていくうちに迷いは消えていきました。

──

その抽象的な事というのは?

貴之

「建築で社会問題を解決するんだ!」っていう純粋な時期があって(笑)。建築ってハコを作るにあたって、いろんな課題を解決しなきゃいけないんですよね。例えば、幼稚園を作るにも予算、法律、社会的な問題があって、それら統合したものを解決するのが建築だと思うんです。お店に置き換えると、オペレーションひとつとっても、「これをやったらお客さんは絶対便利なのに今はやっていない」という問題を見つけたり、お店をもうちょっと居心地良く効率的にするべきだという課題を設定して解決するのに建築的な要素が役に立ったんです。

お客さんに写真をもっと好きになってもらいたい。写真の現像作業に見えるhibiのポリシー

──

以前、チェーン店にフィルムの現像を出したのですが、hibiさんとの写真の仕上がりの違いに驚きました。現像の際に心がけている事はありますか?

恵津子

仕上がりにバラつきが出ないように、うちはお客さんによってかける時間を変えないってポリシーを持っています。例えば、手ブレの写真ばっかりの1本だろうと、気合いの入ったポートレートだろうと、同じ時間をかけて現像作業をする。貴之さんが担当してくれているオーダー時のヒアリングも同様です。

 

みんな何かしらを撮りたくてこのフィルムを撮っているわけだから、預かる以上、それに関する想いとか感情っていうのを私たちは知る義務があると思っていて。だからオーダーの時に、「どんなものを撮ったんですか?」とか、「どんな雰囲気が好きですか?」って聞きたいし、そのお客さんがどんな写真が好きかを知るっていうのを最終目標にしています。

貴之

フィルムを預ける方はそんなに思い詰めていないかもしれないけど、僕らは勝手に思い入れるところがあって。最近の話だと、女子高生が「フィルムの取り出し方がわかりません」って来て、話を聞くと初めて(フィルムで)撮ったって言うんです。せっかくフィルムで写真を残そうと思って来てくれたのに、一番最初に撮ったやつが何も写っていないと悲しいじゃないですか。だから、どうにか撮れていてくれって勝手に祈って、上がってきたネガを見て「撮れてるよー」ってホッとするんです。

──

現像についてお伺いしたいのですが、オーダー時に「おまかせで」って言われた時は、どう仕上げるんですか?フィルムの味にそって仕上げるんでしょうか?

恵津子

フィルムの銘柄によって色の出方が変わってくるので、それももちろん考慮しますし、その人が撮っている内容で判断したりしますね。わかりやすいのだと、明るさですね。お客さんに好みがないかとりあえず聞いて、「特にない」と言われたら写っているものが自然に見える明るさで仕上げます。もしうまく撮れていなくて暗かったりブレていて何を撮っているかわからない写真は、パッと見て「あ、これいいんじゃない」って思えるような雰囲気を目指します。

貴之

始めた当初に写真の仕上げについて2人でちょっと話し合った記憶があります。「オーダーどおりにやっていい感じにならないんだったら、コマごとに判断したほうがいいんじゃないか」、みたいな。「ちょっと明るくしてください」って言われたとしても、「撮っているものの明暗差を活かしたいシーンで撮ってるよな」って時は、ある程度こちらで判断して、写真を活かすように仕上げた方がいいんじゃないかって。

恵津子

お客さんがオーダーシートに記入してくれたとおりにやるんですけど、「思ったのと違った」っていうのが何回かあって。もしかするとこっちが思っている明るさとお客さんが思っている明るさは違うのかもしれないので、そこもふまえて私が経験で判断したらいいんじゃないかって結論になりました。実践し始めてから、「思っていたのこういう感じでした」って言ってもらえるようになりましたね。

貴之

それと、シャッターを切ろうと思ったのはどういう瞬間だったのかっていうのをすり合わせながらね。

恵津子

推理しながらですね。

──

「#hibiプリ」のハッシュタグを見ていても、hibiさんの仕上げた写真には色のパターンがすごくあるなって思っていました。お客さんのオーダーどおりを目指しているからこそですね。

社会との関わり方は「ギブアンドギブ」。お客さんからもらう幸せな気持ちを還元したい

──

お店をオープンして5年目を迎えられましたが、社会とどう関わるかPhotolabo hibiとしての形は見えてきましたか?

貴之

お店や会社が社会にどう関わるかって、めちゃくちゃシンプルに言うと、どんな社会にしたいかって事だと思うんですが、自分も他の人も「幸せである事」を前提に、「役に立たないもの」があってもいい社会を作りたいと思っています。

恵津子

彼には、「写真と建築を比較した時にどっちが役に立つか?」という考えが前提にあるんですけど。

貴之

衣食住の生きるという意味では、建築ってとても役に立つんですよ。その点、写真がなくても生きてはいけますよね。それでも、写真を通して生まれる会話とか人との出会いに、目に見えない価値があると思っています。僕らの役割はお客さんから”お金”っていう価値をもらって、”写真”っていう価値と交換する事なので、そこで生まれた利潤を自分たちの資産にするだけじゃなくて、目に見えない形で還元したいと思っています。それを実現するために、新しい場所を準備中なんです。

恵津子

今年の年末くらいからPhotolabo hibiと並行して新しいお店を上京区あたりで運営していこうと考えています。今のお店は基本的な作業ができて、お客さんが来ることができる場所として機能していますが、入店から退店までのサイクルが早いなと感じていて。そこで新しい場所では、滞在時間が長くなるように飲食を用意したり、空間自体を撮影したくなるようにして、お客さんが誰かと出会ったり撮り合う事が習慣になるような場所にしたいなと思っています

貴之

滞在時間を長くする事で、お客さん同士の出会うきっかけを作りたいんですよ。お店を5年やっていて気付いた事なんですけど、やっぱり写真を1人で撮り続けるってなかなかタフなので。誰かと撮り合ったり、撮りに行ったりする方が長く続けられると思ったんです。

──

新しい場所をそういったコンセプトにしたのは、お客さんからのニーズがあったのでしょうか?

貴之

ある時お客さんに「写真を撮らなきゃ、お店に行っちゃいけないんじゃないかと思ってる」って言われたんです。僕らのスタンスとしては、通勤の帰りとかに顔を出してくれるだけでいいし、自宅でもなく会社でもなくて、全然違う場所があった方がちょっとハッピーじゃないかなって思うんです。「そういう場所ってどんな場所?」っていうのが最初の課題設定で、そこから深めて考えると、写真を撮らなくてもいていい場所が必要だなって。

恵津子

それで最初は、ここでコーヒーを出そうと思ったんです。でも飲食店の営業許可を出していないのでそれを通すのがものすごく面倒だし、設備を置く余裕もない。ここの環境を変えるハードルは高いから、別の場所を新しく作ろうと思いました。

貴之

やっぱり写真を撮れない時ってあります。自分の撮った写真をSNSに上げた時にいいねがいっぱい付かなくて落ち込む人がすごくたくさんいて、実際そこから思い悩んで写真をやめちゃった人をお客さんでも見てきたんです。

恵津子

カメラは持っているけど、結婚されてお子さんが生まれて撮りに行ける時間がなくなっちゃった人とか、いろんな状況で撮れなくなった人たちが気にせず来てもらえる場所でありたいなと思っています。

──

いつも通ってくれるお客さんではなくなってからも、いつでも会いに来てほしいって思うのってなんででしょうか。

恵津子

写真はツールでしかないと思っていて。今一応うまくお店が回っているからかもしれないけど、現状を維持できさえすればその方から無理にお金をもらう必要はないと考えています。うちがオープンした当初に来てくれていて、私たちが大変だった時に応援してくださった方ばかりなので、どちらかというと友達として付き合っていきたいという意味合いが強いですね。

貴之

僕らはチェーン店じゃないからこそ、一見さんが少なくて長く付き合えるお客さんが多い。付き合っていくうちに仲良くなって、その人の人生の変化を見られるのがおもしろいんです。だからいつでも来てほしいです。

恵津子

元々、私がトイカメラの趣味から始めたユーザー側の人間だったので、自分が行きたいお店ってどういうお店かと考えた時に、いつでも行けるお店がいいなって。

──

どうしてそこまでお客さんに還元したいって思えるんですかね?

貴之

僕たちはお店に来てもらっている時点ですでにお客さんからギブされた状態なんだと思うんです。他愛のない会話の中に発見や知恵があったり、結婚や就職の報告とかしてくれたり。それはとても嬉しい事で、そう思った時点ですでにギブが成立していると思いました。だったらそれを他の人にも還元したいと思うのは自然な流れな気がします。

 

それと、僕たちはお店を通して比較的自由にギブができるので、環境や状況でギブができない人の代わりにギブするのもありだし、誰かのギブを拡張できるような場所を提供するって事もありだと思います。それがお店をやっている僕たちができる社会との関わり方なんじゃないかと思うんですよね。

恵津子

より良い社会を作るにはどうしたらいいかと考えた時に、自分ができる事や自分が一番やりたい事ってそれだったんです。

自分が良いと思う写真が良い写真。自分の価値観を見つけよう

──

最後に、おふたりの考える良い写真について教えてください。

恵津子

日によって変わったりもしますし、時期とか、ほぼ直感といったものも関わってくるんですけど。私にとって良い写真というか好きな写真は、昔ながらの家庭写真。自分の家族が撮ってくれたり、家のアルバムに挟まっている写真が好きです。自分でも日常でコンパクトカメラのナチュラクラシカを日付を入れる設定にして、もう8年くらいずっと自分でシャッターを切りたいと思った時に撮り続けています。日常風景が垣間見える写真ていうのがざっくり言ったら好きなのかなって感じですね。

貴之

あんまり良い悪いで考えた事ってなくて、それいいねって自分が言えるようなメンタルを維持してくれる写真。自分が良いと思えたらいいんじゃないかって。

──

自分が良い写真だと思ったものが、良い写真だと。

恵津子

最近だと、いいねがいっぱい付いている写真が人気のある写真で、人気のある写真=良い写真っていうように、価値が他己評価になる傾向があると思うんです。でもそうじゃなくて、なぜその写真が良いのかを考えた上で自分で言葉にする事が大事なんです。hibiでは、お客さんと一緒に考えたくて、いろんなジャンルの写真集を自分たちの言葉でどこが良いかを伝えながら見せたりして、考えるきっかけを作れたらなと。ちなみに今年は「店主えつこのおすすめ写真集」というブログを書いていこうと思っています。

──

本日はどうもありがとうございました!

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EDITOR

堤 大樹
堤 大樹

26歳で自我が芽生え、なんだかんだで8歳になった。「関西にこんなメディアがあればいいのに」でANTENNAをスタート。2021年からはPORTLA/OUT OF SIGHT!!!の編集長を務める。最近ようやく自分が興味を持てる幅を自覚した。自身のバンドAmia CalvaではGt/Voを担当。

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カメラマン

岡安 いつ美
岡安 いつ美

昭和最後の大晦日生まれのAB型。大学卒業後に茨城から上洛、京都在住。フォトグラファーをメインに、ライター、編集等アンテナではいろんなことをしています。いつかオースティンに住みたい。

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