出町座

出町座

出町座

出町桝形商店街は中心街から外れに位置し、いまだに地域の商店街として生活を支えている珍しい商店街だ。元来学生が多い土地柄からか、地域の人の実験的なプロジェクトやお店が小さく立ち上がる場所として機能していて、2017年の年末、商店街の中ほどに立誠シネマが移転する形で出町座がオープンした。

 

出町座は三階建ての複合施設で、役割の違う映画館・書店・カフェが一緒になっているのが特徴だ。ここで一日を過ごしていると、不思議と贅沢な時間を過ごしている気分になれるはず。映画を待っている間にゆっくりとお茶をしたり、映画を観たあとに関連する本を探したり、いつもより時間の流れが遅くなるような……。

 

買い物帰りにふらりと立ち寄るもよし、ここを目的に出町柳を訪れるもよし。一人でも友達とでも訪れたい、どうしてこんな多くの人を魅了してやまない場所が生まれたのか、その理由を探るべく代表の田中さんにお話をお伺いしました。

住所

〒602-0823

京都府京都市上京区三芳町133 今出川通出町, 西入上ル

営業時間

10:00-23:00
※日によって変動します

お問い合わせ

TEL:075-203-9862

インタビュアー:堤大樹

映画を選ぶ時に意識しているのは、どうすれば他者と喜びをシェアできるのか

──

以前、立誠シネマ時代にもSPOTで取材をさせていただきましたね。あの時にはすでに移転が決まっていましたが、実際に移転をされて田中さんやお店にどのような変化が起こったかについてお話をお伺いしたいです。立誠シネマは「映画館ではない」とおっしゃっていましたが、出町座になりずいぶんと環境に変化がありましたね。

田中

大きく環境は変化しましたね。元・立誠小学校という環境では普通の劇場と同じことはできないからやっていなかったんです。出町座はそういった制限がないので、立誠シネマとは違う動きになっていると思います。

──

出町座に移動されるにあたり、いわゆる映画館らしい形というものにこだわりはありましたか?

田中

映画館らしいって難しい言葉ですよね。映画を観る環境の価値は人それぞれ、その場所の実際の資産価値とは異なり、個々人の好みにも左右されます。こちらの資金的な問題もありますし、実は難しいことは考えてなくて。とにかく自分の中のオーケーのラインは超えて、できる限り映画が気持ちよく観えるような環境には近づけようとしています。いわゆる大手劇場の提供する水準とはぜんぜん違いますが。

──

移転されるとなると資金は大きな壁になりますよね。クラウドファウンディングも行っていましたが、資金的な問題は軽減されましたか?

田中

クラウドファウンディングで集めたお金というのは、ここを作る資金に回しているわけではないんですよ。ここを利用して頂いて動かしてくださる方を募り、先に利用する費用を頂いたという感じです。だから基本的にはファウンダーの皆さんが出町座を利用する費用として還元しています。ここに人がなるべく日常的に行き来している状態をオープン前から作っておきたかったので、クラウドファウンディングを使用することで、出町座に積極的に関わって活用してくれる人が増えたらいいな、と思って行いました。

──

次に場所についてですが、ずいぶんと京都の中心街から北のほうに移動しました。そのことによってお客さんの層は変わりましたか?

田中

よりお客さんの幅が広くなったと思います。商店街の中にあるので、映画がお目当てじゃない方も来ますし、カフェだけ使う人もいます。映画はこの場所の機能のひとつという見え方担っていっていると思います。単純にふらっと訪れやすい場所にはなりましたよね。立誠シネマはそういう意味では一般性がなかったですから、来る人はある種モノ好きだったんです。

──

ふらっと入って映画を見るって、なんだかいいですね。そういった方は多いですか?

田中

観る人は観るって感じです。ふらっと観に来れるのは間違いなく(立誠より)こっちですよね。何を観るか決めずに来るおじさんもいますよ。「いまなにやってんの」「次やったらこれとこれですよ」「ほなそれ観るわ」って。でも本来映画ってそういうものだったんですよね。

──

それくらい映画に触れられるのは素敵ですね。シネコンに行くとなると、ひとつ外出モードになってしまうところがあるので。ところで出町座が映画を選ぶ際に基準にしていることがあれば、教えていただきたいのですが。

田中

面白いものですね。新しい、古いなどといったことにはこだわりません。

──

田中さんの考える”面白い”の基準はどこにありますか?

田中

これはたまたま僕が映画を選ぶ立場にあるだけで、僕個人が基準にはなるわけではないと思っています。例え話で言うと、岡村ちゃん(岡村靖幸)わかりますか?彼の歌で「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」ってありますよね。イメージとしてはあれです。映画を選ぶ時には他者を想像するっていうことが最も大切なことで、「この映画をやればあの人がくるかな」とか、「どうやって映画を楽しんでくれるのかな」ということを考えることですね。

──

具体的に客観的なイメージができるということですね。

田中

岡村ちゃんはぱっと見だとナルシストに見えるんですけど、単純にナルシストなだけじゃないんですよ。他者っていうのが見えていて、自分をどうパフォーマンスしたら他者と喜びをシェアできるのかを成立させているプロなんです。それをはき違えちゃいけないんです。

──

しかし、まさか岡村ちゃんが出てくるとは思いませんでした(笑)。田中さんも上映する映画を決める時には、そういったことを意識されているんですね。

田中

そういった感覚はあると思います。出町座の距離感だとそういったところもイメージはしやすい。そしてそれはシネコンのサイズではスタッフも、お客さんも多くて難しい部分だと思います。

主婦の方が買い物の途中でこの場所に立ち寄ることで、その日の晩ごはんが変わったとすれば、それは新しいものが生まれたということ

──

出町座になって映画館としての機能の充実だけでなく、カフェや本屋も隣接する形となりました。こういった複合施設を元々目指していたんでしょうか?

田中

これがベストという訳ではないんです。あるものの中で、自分たちができる101パーセントを目指すしかないわけで、出町座では今回の形になったということです。僕の理想がないと言ったら嘘になりますが、別にここは僕が自分の趣味でやっている訳ではないですし、こうあるべきというものは決まっています。

──

田中さんは、出町座がどのような役割を果たす場所だとよいとお考えですか?

田中

出町座がこの場所にあることの目的は、ここがあることによって新しいものが生まれるということです。

──

新しいものというのはなんですか?

田中

それはなんでもいいんですよ。例えば主婦の人がここがあることによって、買い物の途中で映画を見たり、本を読んだり、お茶をしたりしたことで、その日の晩ごはんが変わったとすれば、それは新しいものが生まれたということです。日常にそういった風景が変わる場面がたくさんある。それがいいか悪いかはわからないですが(笑)

──

そういった意味では非常に引っかかるものが多い場所として生まれ変わりましたね。

田中

新しいものっていうのは、さっき例にあげたような直接的なものじゃなくてもいいんです。ここでたまたま会った人が何かやりだすとします。出町座があったことで何かが始まるとすれば、それも新しいものが生まれたということです。うちは映画制作もやっているので、場所の運営の延長線上で映画を作る可能性だってありますよね。今後の話ではありますが、本屋もあるので本を作るという話も出ていますね。

──

新しいものを生み出したい、変化するきっかけを与えたいという意図からシネマカレッジも継続されているんですか?

田中

それは映画の制作をやる中で、裾野が見えなかったからという理由が大きいんです。僕らはたまたま京都に住んでいますが、映像の制作をしている人って地方にはあまりいないんですよね。とは言え、映像を作るだけなら元々業界にいる人たちは顔見知りだし、チームを組むだけならオファーをかければできる。でもそれはうちじゃなくてもできるんですよ。京都にいるならば京都でやれる制作はどういった形があるのかということを、やはり考えなくてはいけないと思ったんです。

──

それがどのように裾野を見ることに繋がるんですか?

田中

例えば、パートでレジ打ちしているおばさんがもしかしたらシナリオを書く才能を持っているかもしれないし、カメラの前に立たせたら俳優としての才能を発揮するかもしれない。そういうものを可視化したかったということです。それはうちが映像制作をやっていながらも、制作本数のノルマがあるわけでもなく、やりたいことをやるだけというスタンスなのが大きかったですね。だから変な映画ばっかり作っちゃうことにはなるんですけど(笑)。カレッジという形にすることで、そういう人たちを集めて僕はそれを観ることができるのは良いところです。コストがかかるばかりで、収支は全然合っていないですよ。

──

収支が合っていないにも関わらず、出町座に移っても継続される理由はなんでしょうか?

田中

映像業界へコミットする間口みたいなものが必要なんです。僕らが学生の頃は映像を学ぶ選択肢は少なかったですけど、最近だと大学でも映像分野に取り組むところは多くなってきましたよね。今は京都だけでもどこでもできます。でも実は一般の人たちがそういったところに参加できる場所ってないんですよ。東京とかならもちろんありますよ。ニューシネマワークショップであったり、ENBUゼミナールであったり。それがいいか悪いかは別にして、今でも間口の多くは東京にしかないのが現状で、地方にはない。だから、うちで少しでもそういった場所を作れたらと思ってやっています。

──

参加される方は映像に関係のない方が多いんですか?

田中

みんなそれぞれですよ。多少はプロの俳優の方がトレーニングとして来ている方もいます。脚本とかはほとんど素人ですね。興味を持った方が来られますね。

選択肢を、自分の嗅覚で選ぶ場所にしたい

──

クラウドファンディングの記事の中で、「立体的な体験」という言葉を使われていたのですが、こちらどのようなものか少しお話いただけますか?今後、出町座の目指す先を知るのに重要なワードになっているような気がしているんですが。

田中

その言葉の意図はあまり覚えていないんですが、場所として奥行きがあるといいということじゃないでしょうか。本が並んでいるのと、映画が観れるということは全く別のレイヤーの話ですよね。そういった違うレイヤーのものが同居して、重なることで、多層的な空間になれば、そこにいる人が無意識にでもそれを感じられることになるのかなと。映画を観たあとに、本棚を見て引っかかるなにかがあれば、世界が広がるかもしれませんし。

──

作品に影響を受け、敏感になった知的好奇心をさらに刺激して発展させていくというイメージでしょうか。

田中

そうですね。人間に大事なのは、自分が何かを見つけたりすること、いわゆる自主性ですね。ここはそういった自主的に選ぶことができる場所であるとは思います。こっちが声高に何か言わなくても、自分がなにか思ったもの、例えば日替わりのランチになにかを感じたならカフェで頼むとか、直感で気になった本を買って帰るとか。

 

結局、人はわかりやすく推していかないと気がつかないところもありますが、それって要は力が強い宣伝に流されていくだけなので僕は好きではないんです。ひとりひとりのその選択肢を、自分の嗅覚で選ぶ場所にしたいですし、本来はこうあるべきだと思っています。それにしては現状、やや整備されすぎているので、本当はもっとカオスな方がいいんですが(笑)

──

整備していることに意図はありますか?

田中

いや、カフェはカフェで経営していて、本屋もチームで考えがあってやっているので。カフェにもっとカオスにしてくれとか、ラーメンを置いてくれとは言えないですからね。そういう意味では整備しています。ただまだここはベーシックなことしかやっていないなと思っていて、ここの場所のポテンシャルからすればまだまだですね。今後もっとドライブをかけてはいきたいんですが、ドライブをかける前に、ベースを維持することで一杯一杯な部分もありますから、そこは時間をかけてやっていきたいです。

──

ドライブした時にどんなことが起きるのか、今から楽しみです。

田中

僕がやりたいことを実現する場所じゃなくて、ここに来た人がここで何かをやりたいと思えるかどうかが重要なんです。それが新しいものが生まれるってことなので。それを僕が受けられる体力があるか心配ですが(笑)。

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PHOTOGRAPHER

岡安 いつ美
岡安 いつ美

昭和最後の大晦日生まれのAB型。大学卒業後に茨城から上洛、京都在住。フォトグラファーをメインに、ライター、編集等アンテナではいろんなことをしています。いつかオースティンに住みたい。

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