取材に伺うと、入り口に「京大第二の図書館」と書かれた黒板があった。「これは2020年5月になって私が書き加えたものなのです。オンラインの授業を受けたり、読書や勉強をしたり、文字通り図書館のように活用してほしいと思ってつけたものです」と、4代目の店主・川口聡さんが黒板の意図を教えてくれた。京都大学の学生をはじめ、多くの学生で賑わう百万遍にある〈進々堂 京大北門前店〉は「日本の将来を担う学生に本場のフランスパンと薫り高いコーヒーを味わってほしい」という進々堂の創業者である続木斉氏の想いを具現化したお店だ。
創業90年を迎え、時代と共に学生の様相が変化しても「学生のために」を貫く姿勢は今も変わらない。その真心が〈進々堂 京大北門前店〉が愛され続ける理由なのだろう。
京都府京都市左京区北白川追分町88
10:00~18:00
※新型コロナウイルス感染対策のため、オープン時間を変更して営業しています。
火曜日
TEL:075-701-4121
店内には、勉強に集中しやすいようにBGMが流れていない。本のページをめくる音や食器の音、ほどよく聞こえる会話など環境音がBGM代わりだ。無音でもなく、うるさくもない、まさに図書館のような理想の空間だなと思った。
お店の中央にある本棚の選書について川口さんに聞いたところ「いつの間にか知らない本が入っていたりするんです。学生たちが作った詩集も置いてあったりしますよ」とのこと。喫茶店の本棚が、訪れる学生やお客さんの共用のものになっているようだ。誰かの入れた本を別の誰かが手に取って、思わず知らないカルチャーに触れることがあるかもしれない。この場所は、カルチャーの入り口のような役割も担っているようだ。
大きな窓から日差しが降り注ぐ入り口横の席に目を向けると、何十年という間、この場所で教授と学生たちが大きな長テーブルを囲んで時間を共有してきた姿が想像できる。「長テーブルなのは、ゼミの教授と生徒がこの場所を囲んで講義をできるようにと考えられたものです。ベンチの高さも座った時に勉強がしやすいようになっているんですよ」と、きちんと手入れされたテーブルを大切そうに見つめる川口さん。
創業者の続木氏は詩人でもあり、オープン時の新聞広告に「このお店は生き物である。精霊の魂が宿っている」とこのお店を形容していた。大切に守り、育てられたこの場所からは、静かに学生たちを見守る建物の息遣いが聞こえてくるようだ。