“ものを見る”とは、ものと空間の調和を見極めること。〈Soil〉店主・仲平誠インタビュー

“ものを見る”とは、ものと空間の調和を見極めること。〈Soil〉店主・仲平誠インタビュー

“ものを見る”とは、ものと空間の調和を見極めること。〈Soil〉店主・仲平誠インタビュー

京都・岡崎の仁王門通にあるビンテージとアンティークのお店〈Soil〉に行くと、店主の仲平誠さんによって見出された古道具がずらりと並ぶ。7、8畳ほどの大きさの空間には、時代の流れに照準をあわした80年代のポップな食器や雑貨に混ざって、用途がすぐには想像できないパンの置物や、いつの時代のものかもわからない派手な花器が置かれている。調和の取れた空間ながら、少しだけ感じられる違和感。それが〈Soil〉らしさでもあり、仲平さんの“ものを見る目”を紐解く鍵でもある。


仲平さんは元・立誠小学校で2014年〜2017年に開催され人気を博した『京都ふるどうぐ市』や、今年で2年目を迎える『平安蚤の市』を主催。京都の古道具界に新たな風を吹き込む仕掛け人だ。

 

「買い物の時って、100点満点を目指すと思うんですよ。でも何年か前から、30点くらい。ちょっと気になるくらいのものも買って置いてみるようにしたんです」と語る。取材に伺った日は、派手な柄や色を使ったものが今気になるものだと紹介してくれた。「空間に合わせた時に、調和させたいのか違和感を持たせたいのか、その「ほど」を考えるのが難しい」と少し困りながらも笑顔で語る仲平さんからは、これまでにない古道具のあわせ方を示そうとする姿勢がうかがえる。

一般に、“ものを見る目”と聞くと、美しさを見出すことや、売れる商品かどうか見抜くことをイメージするだろう。しかし仲平さんにとっては、“ものを見る”とは、ものと空間の調和を見極めることをさす。そして調和には「違和感を与える」バランスもまた、含まれている。

 

そんな “ものを見る目” をどう身につけたのかが取材前から不思議だった。話を聞いていると、どうやらそのルーツは高校生の頃から自然と行ってきた「日常的に身の回りのものを売り買いする」というエピソードにある。大きな得を目指すのではなく、時に損をしながら身銭を切って小さく成功を積み上げる。仲平さんの “ものを見る目” はそんな風に養われてきたのだ。

仲平誠

〈京都 ビンテージ アンティーク Soil〉店主。2003年京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)美術工芸学科洋画コースを卒業後、アンティーク商に勤務。2009年に北欧を中心に、ヨーロッパなどで買い付けたビンテージやアンティークの食器、雑貨を販売する〈京都 ビンテージ アンティーク Soil〉をオープン、今年で12年目を迎える。これまで、各地の骨董市や蚤の市に出店し、また自身では2014年〜2017年に元・立誠小学校で『京都ふるどうぐ市』を、2019年からはほぼ毎月10日に平安神宮の岡崎公園で開催される『平安蚤の市』を主催。イベントの企画・運営としても手腕を発揮している。

売り買いの回数や経験が、自信になる

──

学生の頃から天神市(毎月25日に北野天満宮で開催する骨董市)やフリーマーケットによく通われていたそうですね。出店もされていたとか。

仲平 誠(以下、仲平)

浪人生の時はなんせお金がなかったので。当時はヤフオクもなかったし、いらなくなった服は誰かが欲しがるだろうと思って、フリーマーケットに出店していました。

──

昔から古いものが好きだったんですね。

仲平

好きでしたね。古着が一番好きで、10代の頃からよく古着屋に行ってました。実家暮らしだったけど、古着屋に売っている食器とか椅子も買ったりしてたし、周りの友達とはお金の使い道が違ったかも。欲しいものがあったら服を売って、そのお金でまた古着屋に行って。友達にも手持ちの服を「これ似合うぞ」と勧めて売っていたし、その頃から「買う」と「売る」を繰り返していましたね。

──

本格的に売ることに興味を持ったのはいつ頃ですか?

仲平

高校生の時に京都リサーチパークで始まった大きなフリーマーケットがきっかけですね。毎月朝一番に行って、300円とか500円で買い付けたものを、出店してた大学生の方の売り場を間借りして売っていました。それで儲けていましたね。

──

儲けられるものなんですね!イベント中に商品を買って、同じものを同じ場所で売る、その差分で稼ぐってことですよね。

仲平

いやあ、なんかね。天才やなって自分で思っていましたね。

──

おお!ちなみにポイントはどんなところなんでしょう?

仲平

値段を設定する感覚が良かったんですよね。古着屋でめちゃくちゃ買い物していたから感覚が身に付いていたんだと思います。それと、相手にいいなと思わせることが得意なんですよ。「これ絶対いっとき」と言い切ります。

──

そういう感覚や自信は、学生の頃から自分のお金でたくさん売り買いした経験から身に付けられたんですかね。

仲平

だからかな?苦にならずにできましたね。自分の得意技なのかもしれないと思っていました。特に10代の時ってそういう自信なかったですか?

──

ありましたね(笑)。でも、だんだん薄れていきました。

仲平

僕も同じです。でも〈Soil〉を始めてからまた取り戻しました。始めた当初は古道具の有名なお店とか何も知らなくて、やりながらかっこいいと思う人から勉強させてもらって。結局は自分の感覚を信じればいいというところに行き着いて、自分で選んだものに対して緊張しなくなりましたね。

──

自分の選んだものがもし売れなかったら……という緊張ですよね。

仲平

そうです、最初はドキドキしていましたよ。だって、自分で選んだ服とか鞄、発言一つでも、自分を曝け出すわけじゃないですか。店はさらにそれが値段にも表れるので。

売れないと思っていたものに目が向いた時、成長を感じた

──

お店を始める前は、アンティーク商に勤務されていたんですよね。会社を辞めた理由に「自分の身の丈に合っていない」という思いがあったそうですが、詳しく伺ってもいいですか?

仲平

東京に配属されて、エミール・ガレのような高価な商品を扱っていたんですけど、資料を見せながら「これが100年前の……」と言っている自分に違和感があって。自分の手が届く範囲のものじゃないと素直にいいと思えないし、そうじゃないと楽しくない。お客さんに対しても演技でしかなかった。得意なことも好きじゃないとなかなか続けられないとわかりました。

──

アンティーク商では、好きの種類が少し違ったということですか。

仲平

やってみないとわかんないですよね。僕の場合は古いものが好きなのはわかっていましたけど、古いものなら何でも良かったわけじゃなかった。自分の身の丈に合うものが好きだと気付きました。

──

それで自分の身の丈のものを扱えるお店として〈Soil〉をオープンされたんですね。

仲平

アンティーク商にいたときは高価な商品も売ることができたし、すぐにお金持ちになれると思っていました。実際は、なんのコネもないし、当時はスマートフォンもまだ流通してなくて宣伝もろくに出来ないから、初めは誰も来ませんでした。

 

それに北欧やヨーロッパは渡航費も高くて、用意しているお金も多くなかったので、買い付けに2回行ったらお金がなくなってしまって。1年以上は、友達の誘いも断って、ジュースも買わずに日々節約しながら過ごして、たまに日雇いの仕事もしていました。でも好きなことだから楽しかったんですよね。

──

その状態からどうやって抜け出したんですか?

仲平

いよいよ「どうにかしないと」と思った時に、知り合いの作家さん数人に声をかけて作家展を開催することにしました。それと京都の有名なガラス作家の荒川尚也さんにも飛び込みで声をかけたら出展してくれて。作家展をした売り上げでフィンランドに買い付けに行くことができました。でも、いわゆる人気があって売れるものは高くて買えなかったので、全然人気がないけど、何か売れそうなものはないかなと思ったら、アラビア(ARABIAは 1873年に創設したフィンランドの窯)の古手の白を見つけ出して。

Webサイトより
仲平

当時はポップなマリメッコとかが北欧の商品では主流で、誰もやっていなかった1940年代以前のアラビアの無地が100〜200円で買えたんです。それに「オールドアラビア」と名付けて売り始めたら、ちょっとずつ利益が出てきて、また買い付けに行けるようになって……という感じでちょっとずつ大きくなりました。売れるものが買えなかったから、売れないものを売るしかない。窮鼠猫を嚙む、でなんとか無い知恵を振り絞って、その時に一歩進んだと感じました。

──

一歩進んだというのは……?

仲平

主流の柄物ではなく、あえて誰も手を付けていなかった無地を選んだということは、今まで僕の中にはなかった新しい価値観が生まれたということです。そういう新しい感覚が生まれた瞬間が成長だと思います。

100点満点を目指さない買い方

──

その後、2014年に『京都ふるどうぐ市』を開催されていますが、どのような経緯で始められたんですか?私も2回ほど遊びに行かせていただきましたが、入場待ちの列も出来ていて、大盛況でしたよね。

仲平

全国にあるかっこいいお店を京都に呼びたいなと思ったんです。バリバリの骨董好きが集まる東京の老舗の『目白コレクション』と、手紙舎さんが始めたもっとライトに古いもの好きが集まる『東京蚤の市』のちょうど間のようなイベントがしたくて。

 

それで「当たって砕けろ」で直接お店に声をかけて回ったら、ほとんどの人が受けてくれたんですよ。それまであまりイベントに出ないようなお店の方まで出てくれたり、昨年、惜しまれつつも47年間の歴史に幕を閉じた重鎮の〈古道具坂田〉の坂田さんは第一回目に遊びに来てくれて。それで坂田さんが各方面に宣伝してくれて、二回目以降は美術館やギャラリーの方、最後はアーティストの村上隆さんも来てくれました。

──

すごいですね!

仲平

市全体を通して一つの価値観の押し付けにならないようにいろんな道具屋さんをバランス良く集めたんですが、それでも似ている部分はあって。やっぱり価値観に時代性があるなと思いました。でもみんなが同じものをいいと思ってその方向に進むと、別の新たな流れが出てくるんですよ。そのことに気付いて、今のうちに人がいない方に伏線を貼っておこうと思って、当時では珍しくいろんな色を使っていました。

──

確かに『京都ふるどうぐ市』に行った時は、カラフルなものを置いているお店は見られなかったように思います。

仲平

『京都ふるどうぐ市』の頃にいまお店に置いているような色、柄のものを置いても売れなかったと思うし、狙ってやってることがわかってもらえなかったと思います。古道具の流行も徐々に変化してきているので、今ならわかってもらえる。もうちょっとしたらまた時代は変わりますけどね。

──

時代の流れは流行を読めばわかるってことですよね。仲平さんは自身の中でピンとくる、こないっていうのも判断基準としてありますか?

仲平

それは単純に自分が飽きた時なんですよね。

──

飽きた時ですか。

仲平

自分がドキドキしなくなったら買わなくなります。買い物の時って、100点満点を目指したがると思うんですよ。自分の理想があって、サイズ良し、柄良し、コンディションも良くてこれで8000円だったらアリだなみたいな。でも、その買い方を何年か前に辞めて。100%いいとは思っていないけど、ちょっと気になるものも買ってみるようにしたんです。今お店に置いているパステルカラーのものも、5年以上前に見つけた時は「なんかありやな」程度で、多分自分の中で30点くらいでした。

──

そうだったんですね。

仲平

時代が変わったり、自分の価値観が更新されたことで、昔30点だったものがだんだん気になりだして、50点、70点と僕の中で上がってきて。逆にそれまでいいと思っていたものも、飽きたら70点、60点と下がる。僕の中で大事なもののバランスが変わるんです。先走りたい性格なのに、「うわ!絶対完璧だ!」って常に80点の時に買っていたら遅いじゃないですか。だから、最近は自分の感覚を信じて、世間の流行じゃなくて僕の中でブームが来そうになったら手を出すようにしています。一度30点のものを買うと、次に点数が上がりそうなものが目に見えるようになるんですよ。

──

これまで何とも思っていなかったものが、仲平さんのセンサーに引っかかるようになるんですね。

仲平

何個か買うと見え出しますね。それでやっぱり違うと思ったら違っていいんですよ。試したり、つまみ食いも大事だと思います。

フィンランドの古い手織物
刺繍の入ったクッションカバー

これ(写真左)は5年前くらいにフィンランドで買った古い織物で、手紡ぎの麻糸で織られたものです。これ(写真右)は80年代頃のアクリル製クッションカバーに誰かが手で刺繍したもので。はじめは「えっ」と思ったけど、なんか面白いなと思って。古い織物の方が希少性があって評価が高いと思うけど、今こうして見ると、同じ値段だったらクッションカバーの方が欲しいなと思ったんです。それって5年前の自分に飽きることが出来て、自分の価値観が変わったということじゃないですか。それがめっちゃ嬉しいんですよ。よく、「男はブレるな」ということを言われたりしますけど、どんどんブレていこうと思っています。

──

毎回買い付けにいく時が楽しみですね。

仲平

「今回僕は何に引っかかるんやろう」というのが楽しい。

8:2のバランスが、飽き性の自分にはちょうどいい

──

(店内を見回して)今並んでいる商品の構成を教えてもらえますか?

仲平

商品構成の8割は定番のものや素直にいいなと思うものですが、残り2割は「ちょっと早すぎるかな」と自分でも半信半疑のものだったり、これまでの〈Soil〉とは違う雰囲気のものなどをお試しで置いているように思います。そういう僕の中で「なんかいいな」「どこかいいな」と感じるものや未来に繋がりそうなものを2割くらい置くことで自分が楽しんでいるのかも。

──

8:2のバランスなんですね。

仲平

自分が飽き性なことを知っているし、マイブームも変わってきますから。いまの気分にドンピシャなものばかり揃え過ぎたら、それに飽きはじめたときに楽しくない気分になるので、自分が飽きないように工夫したり。今は虎柄も気になってます。

──

虎柄ですか!

仲平

例えばですけど、すごく渋い土間とか日本の家屋に虎柄の花器を置くとかっこいいと思うんですよ。空間にものを合わせてなんぼで。そこにどれくらい違和感を与えたいのか、調和させたいのか、その「ほど」を考えるのが難しい。「この置き方以外ダメです」となるのは嫌なので、お客さんが選べるようにはしておきたいし。

──

そういう混ぜ方のセンスは、どのように身に付くんですか?

仲平

僕は、今までたくさん試してきたから、あとでこの芽が何かに活きると経験上知っている。だからできるだけです。皆さんも100点を目指さなくても良いから、ちょっと気になる異質なものを買って混ぜてみたら、違う芽がでるかもしれないですね。

 

それと、古いものを買うことは自分のもの選びのレベルを上げる為の訓練になると思いますよ。百貨店とかには今の時代にあったものが置いてあるけど、古いものは今の時代にぴったりじゃないじゃないですか。それをうまく今の気分に合わせて選んだり、今では売っていないものを探したり、そして値段と照らし合わせて買う。それを何回も繰り返すと自分なりの見るポイントができてきます。蚤の市やフリーマーケットに慣れていない人はなかなか選べないんですね。

──

仲平さんの“ものを見る目”は、実践によって磨かれてきたんだなと納得しました。

仲平

それと、意識はほとんどしていないんですけど、街を歩いていて目に付いたものとか、展覧会でも漫画を読んでいても、常に自分だったらこうするかな、という目線で見るクセがついているかもしれない。

──

古道具に限らず日常の全ての物事を能動的に観察しているんですね。

仲平

現代アートも写真も好きで、本もよく買うんですけど、人よりインプットが多いかもしれないです。

──

どんな本を読まれるんですか?

仲平

写真集や、アーティストの作品集が多いです。人の発想が好きなんです。家具でも現代アートでも、その発想がお金になっていると思います。……ちょっと時間ありますか?

適当に取ってきたんですけど、例えばアメリカの写真家のスティーブン・ショア。アート写真といえば白黒写真が主流だった時代に、現場そのままのカラーで、日常の汚いものや普通のお店を撮ったり。美しいというよりは、その発想が評価されると思うんですよ。

 

あとは建築をテーマに現代アートを作るレイチェル・ホワイトリードや、ホックニーの油絵も大好きで。金属の部品を描いたり、60年代とか70年代にこういう色や発想を取り入れる凄さというか。盗むものがあるなら違うジャンルから取って、ミックスしたら新しいものが生まれると思っているから。

──

改めてお店を見渡すと、配色や商品の配置のバランスに、写真集のエッセンスと共通するものを感じました。ピースがカチッとハマったというか。

仲平

嬉しい。僕には名作の家具ばかりを揃えている写真は面白くなくて、一つだけ違和感のあるものを混ぜるとか、逆に一つだけちゃんとしたものを置いておくとか、混ぜ方を考える方が面白いんです。世間で高評価を得ているものを揃えることはお金があれば多くの人ができるから。

──

最後に、仲平さんが古道具屋を飽きずに続けられている理由をお伺いできますか?

仲平

常にものは生まれ続けていて、時代が変われば、次に面白いものが絶対にあるからですね。20年くらい経ったら面白くなったりするから。一生飽きないですねこの業界は。

──

すごい、天職ですね。

仲平

今はダサいと思っているものも、20年後にはいいなと思っているかもしれないし。リサイクルの世界だから。時代の空気感も感じて売れるものも置くし、僕がいいと思うものも置くし。そんな気取っていないつもりなんで。

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EDITOR

堤 大樹
堤 大樹

26歳で自我が芽生え、なんだかんだで8歳になった。「関西にこんなメディアがあればいいのに」でANTENNAをスタート。2021年からはPORTLA/OUT OF SIGHT!!!の編集長を務める。最近ようやく自分が興味を持てる幅を自覚した。自身のバンドAmia CalvaではGt/Voを担当。

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PHOTOGRAPHER

岡安 いつ美
岡安 いつ美

昭和最後の大晦日生まれのAB型。大学卒業後に茨城から上洛、京都在住。フォトグラファーをメインに、ライター、編集等アンテナではいろんなことをしています。いつかオースティンに住みたい。

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